広島ワークショップ旅行記
28日の10時半に、駒込から電車に乗って、広島に出かけた。
広島現代美術館でワークショップをやるために、
学校の春休みを利用し、すっごく久々の一人旅行だ。
新幹線内で、一時間の睡眠。
人間の頭の重さを実感。
新大阪で、わしのとなりの隣の席のサラリーマンが煙草を吸いに席を立って、
その間におばちゃんがそこに座り、
案の定、戻ってきたサラリーマンとおばちゃんが口論。
「じゆうせきやろ?」
「なんで?煙草吸いにいってたん」
「煙草くらいがまんせー」

ああ、案の定、案の定。

はいはい、関西関西。
エスカレーターで歩く人は右か左か。お好み焼きはご飯といっしょに食べるか食べないか。
関西に来たときの、お約束。
このくらいじゃ、カルチャーショックなんか受けないぞよ。

しかし…東京では、たしかに、このコミュニケーションはあまり起こりえない。
なんというか…関西と関東では、コミュニケーションの周波数が違うようだ。

神戸、岡山、京都、いろんなとこを通り過ぎた。
日本地図の中で、今どこなのか?さっぱりわからない。
広島に行く、直前まで、学校の仕事をしていたので、広島についての下調べは、ホテルの予約以外に何もしていない。
日本地図を人体になぞらえて、大阪を股間とすると、広島は膝あたりか?
わからない。
だいたい、この「人体になぞらえる」考え方は、適切なのか?
北海道は頭?九十九里浜はエルボー?
九州は、脱いだクツ?沖縄は、脱いだ靴下?

3時に広島についた。都会だ…建物は、池袋くらいの大きさ、数がある。でも人は少ない。
すぐに路面電車に乗って、ホテルと現代美術館方面へ行く。
駅を降りて、お財布に、お金があんまり入っていないことに気づく。
しまった。これでは、チェックインできない。お金をおろさないといけない。
しかし、コンビニが無い!
そうだ、これが、群馬にも共通する、田舎の怖さの一つだ。
普段東京に住んでいると、いつでもどこでもお金をおろせることに、慣れすぎている。
コンビニを求めて歩いて…結局駅周辺まで戻ってしまった。

ホテルでチェックインして、(ロビーが何か臭い)
現代美術館へ歩く。
人々が、お花見しているような、公園が随所にある、
低い山の上にそれはあった。
受付で、「あしたワークショップに出させていただく、関口光太郎と言うものです」と申し出る。
担当の、長野出身の広島人女性の学芸員さんが来て、事務所に連れて行ってくれた。
事務所の、何人かの人たちとあいさつしたり、名刺をもらったりして、
わしはとりあえず、今やっている展示を観た。

展示名は、「どろどろどろん」。
妖怪とか、幽霊とか、異界とか、そういうものを要素に含んだ、現代美術の作品や、
昔の幽霊画、民間信仰の神様的な人形、そういった作品が展示されていた。
解説員として、黒いユニフォームのおばさんたちが、いたるところに座っていて、
ほどよい積極性で話しかけてくれる。
展示は、ボリュームもあるし、作品も面白いものが多くあって、見事だった。

わしは、この展示を一通り見終わった後にたどり着く、柱に囲まれた少し広くなっている「ホワイエ」というスペースで、
明日、「みんなで妖怪を作ろう」というワークショップをやらなければならないわけだ。

このワークショップに参加するに当たって、わしはいくつか疑問があった。
ワークショップで作った作品は、この企画展が終わる5月の10日まで、展示されるとのこと。
そのために、わしがはるばる東京から呼ばれたということは、
わしはこのワークショップ、または作品に対して、作家性を求められているのか??
だとしたら、それはけっこう難易度が高い。
だってわしには、前日の夕方に準備し、
当日にワークショップを開き、
次の日に形を整えたら、すぐに帰らなくてはならないからだ。
一ヶ月くらいの時間があるなら、「これが、わしじゃ」というように、作家性を発揮させることも可能だが、
三日しかないとなるとなあ。
しかも、作る作業は、わしの手ではなく、主にワークショップの参加者の手によってなされるわけで。
それに、わしは普段教員をやっているので、誰かに「作らせる」ときは、
できあがるものの完成度ではなく、作っているときにどれだけ楽しいかという、
結果よりも過程の充実を求めてしまう。
これは、クセのようなものだ。
プロレスラーが、K-1とかに出場すると、格闘技に詳しい人から
「プロレスラーは、相手の技を、よけずに、あえて受けるクセがある」などと言われたりする。
それといっしょだ。

というわけで、わしは「このワークショップで、何を求められているんだろう?」という疑問を晴らせないまま、
事務所に戻ってきた。
そこで、先ほどの「長野生まれ広島人女性」の学芸員さんと、
この企画展の先頭に立っているのであろう「奈良生まれ広島人女性」の学芸員さんと打ち合わせをする。

わしは、「自分はこのワークショップで、何を求められているんですか?」とたずねるべきだった。
でも、できなかった。
なぜなら、「作家性のある作品の展示を、期待している」と言われたら、もう対応できないからだ。
用意してもらった材料は、限りがあるし、わしのバイタリティも、限りがある…。
だから、わしは…探りを入れる…
「わしがダンボールで建物を作って、街のような状態にしておいて、
ワークショップに来てくれた人が、新聞紙と、ガムテープ、カラーガムテープ、カラーマスキングテープを作って、妖怪を作って、
街の中に設置していく、ということを考えているんですけど」
と話す。
しかし、二人の学芸員さんからの、反応が、薄い…!

(ここでは、その場の関口の葛藤を記載します)
だ、だめ?それでは作家性がでないからだめ??
でも、もうここまできたら、わしはこれしかできないッス~~~
そう、この状態になったのは、事前にあんまり学芸員さんたちと打ち合わせができなかったことが一因ではある。
普段のお仕事に気をとられて、わしからあんまり連絡を取れなかったし、このワークショップについて充分頭を回転させておくこともできていなかったのかもしれない。
ああ、わしが甘かった、久々にやっちまった…
(葛藤ここまで)

しかし、このリアクションの薄さも、関東と関西の周波数の違いから来る、印象の食い違いなのかもしれない。
わしは、そんなに間違ったことをしようとしているわけではないのかもしれない。
(学芸員さんは、作家性を求めているわけでも、楽しければいいと考えているわけでもなく、
ただ、あんまりイメージが無いだけなのかもしれない)
そう思い直して、元気を出し、準備にとりかかった。

倉庫や搬入口のあるバックルームで、黙々とダンボールのビルや樹木を作る。
七時に閉館した後は、「ホワイエ」に出て、そこでシコシコと作る。
途中、宅配の広島風お好み焼きをご馳走になった。
白いスチレンの、丸いケースに、お好み焼きが「ガッ」と入っている。それが、ピザーラのように、送られてくるのだ。
とりあえず、ひろしまでやりたいことの一つだった「広島風お好み焼きを食べる」ということは、クリアした。

結局わしは、9時45分までかけて、準備をした。
二人の学芸員さんを含め、3人の職員さんが、わしのために事務所に残ってくれていた。
準備を終えた状態の会場を見ても、学芸員さんのリアクションは、薄い…。
「奈良生まれの広島人女性」の学芸員さんと、「大阪生まれ広島人男性」の職員さんが、わしをホテル付近まで送ってくれた。
ホテルに着いたわしは、完全にナイーブモードに入っていた。

翌日29日。
朝5時に起きて、見本のための新聞紙工作を2体作る。
久々にテレビを見た。坂東英二。なつかしい。

ホテルで朝食。感じのよい接客だった。
9時に現代美術館着。準備物を付けたし、10時半にワークショップ開始。
お昼の休憩。事務所の職員さん達は、テポドンの話題で盛り上がっていた。
1時半から、4時半までワークショップ後半戦。
「ホワイエ」は可燃ゴミと妖怪でごったがえし、本ワークショップは終了した。

結果的に、100人参加した。
参加者は、非常に楽しめていたように思う。
六本木で同じようなワークショップをしたときは、大人もはしゃぎながら参加していたが、
広島の大人たちは、黙ーって、すごくマイペースに、とても凝っていて変な作品を作り、小さく「できました…」と伝え、置いていった。それがけっこう良かった。
広島の大人ナイス。

わしの尺度で言えば、ワークショップは成功であった。
この美術館で、ワークショップに100人来ることは、まれであるとのこと。

それでも、学芸員さんたちのリアクションは薄く…
わしのナイーブモードは解除されないまま、日程は進行した。

片付け、飾り付けは明日やることにして、わしは歩いて原爆ドームを観にいった。
しかし、広島の道は意外と入り組んでいて、20分でいけるはずなのに40分かかった。

薄暗い中に建つ、原爆ドームを見て、何を感じたかと言うと、「逃げれなさ」だった。
今まで、小中高と受けてきた平和教育の中で、何度も広島は登場した。
しかし、それらは、本当の意味でわしの体の中には入ってこなかったんだなあ、と思う。
なぜなら、それらの情報はいつもメディアを通して伝わってきたからだ。
本の中の、広島の話は、本を閉じれば見えなくなる。
はだしのゲンの映画も、テレビを消せば、見えなくなる。
そういうふうにして、わしらは情報と一定の距離を取れるのだ。逃げられるというか。
しかし、原爆ドームの傍らに立つと、その状況から、逃げれない。
目を閉じると、原爆が落ちてきた情景が身の周りに広がる。
何しろ、原爆は、この建物のほぼ真上で炸裂し、地面に降ってきたとのこと。
(垂直方向に爆風が降ってきたから、天井は壊れても、壁は残ったんだって)
それから、原爆ドームのすぐ横には、広い川がある。
この川も、いわゆる原爆ものの作品で、たくさんの人たちが入って死んでいったあの川だ。
なるほど。と思った。
逃げれない。原爆ドームには、そういうすごい価値がある。
ここに来れば、誰でも強烈に原爆を思い出す。心が被爆する。

それから…美術館の人たちの飲み会に呼ばれた…
「大阪生まれ広島人男性」の職員さんを中心に、飛び交う会話!!
テレビ番組の中のあれだ。
会話のための会話。
高度すぎる…バスケットボールがすごく上手い人たちが、彼らにしかわからないレベルの領域でゲームしているみたいだった。
うお…。
テレビで見るぶんにはいいのだけど、現場に身を置くと、
周波数の違いを感じ続けることになった。
メディアを通していれば距離を取ってながめられるけど、現場にいると、逃げられない。
すごく貴重な体験だった。牡蠣も食べれた。
でもわしは、村上春樹風に表現すると、ごく控えめに言って、とてもクタクタになった。
そして、ホテルに戻り、缶ビールを一缶飲んで寝た。

翌30日。
朝9時20分に現代美術館に行き、片付け、飾りつけ。
途中、「長野生まれ広島人女性」の学芸員さんと、「奈良生まれ広島人女性」の学芸員さんに連れられ、
山のふもとの広島風お好み焼き屋さんで昼食をとり、
その後、5時までかけて、飾りつけをした。
「できました」と伝えると、二人の学芸員さんは、小さく拍手をしてくれた。
「良い」とも「だめ」とも言われなかったけど…でもわしは、もう帰る。
東京での予定が待っている。
今回のワークショップ、及び残され、設置された作品が、果たして良かったのかどうか。
よくわからずじまいだったけど。
もうこれ以上は時間が無いことをいいことにして、わしは帰った。
ちなみに、美術館のある山は、原爆が落ちたときに壁の役割をして、
山の裏手の建物は、被害が少なかったらしい。
そういう、かっこいい山だった。

帰りの新幹線で、パフュームを聞いた。
彼女達も、お好み焼きを食べ、広島の周波数で会話して育ったのだろう。
久々に、示唆に富んだ旅行ができた。
面白かった。
by syun__kan | 2009-04-01 12:45 | 日記 | Comments(2)
Commented by ラブ子 at 2009-04-04 17:47 x
広島風お好み焼きを食べることは、ごく控えめに言ってすごく羨ましい。
広島の大人の話を見て、同じクラスだった広島出身の娘を思い出しました。ありがとう。
Commented by 関口 at 2009-04-05 00:43 x
広島風お好み焼き材料セットを、おみやげで買ってきて、
うちの電子レンジの上に手付かずのまま置いてあります、よ。
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現代芸術家、関口光太郎の日記。
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