6月14日のエルボー
その日わしは、プロレスを観にいくことにしていたんだ。
5月の終わりに、一人の時間があったので、
ふらりと後楽園ホールの新日本プロレスを観にいったら、
飯伏幸太や、プリンス・デヴィットなど、
わしと同年代の若い選手の試合がとても良くて、
「また観たい!」と思って、14日のチケットを取ったのだ。
Hさんまで誘って、後楽園ホールの一番高い席を買ったのだ。
そしたら、14日の朝に、三沢光晴が亡くなったというニュースを知った。

三沢さんは亡くなった。みんなが知ってる通りだ。報じられている通りだ。
しかしわしは、幼稚園児のころからプロレスファンだったので、
みんなが知らないことも知ってる。みんなが感じないことも感じる。

三沢は、受け身の天才だった。
受け身の天才とはどういうことかというと、
相手の危険な投げ技を受け、真っ逆さまにマットに落ち、それでも怪我をしない、という技術の、第一人者だった。
90年代の日本テレビ 全日本プロレス中継30では、毎週のように真っ逆さまにマットに落ちる三沢の姿があった。

スティーブ・ウィリアムスのバックドロップを食らい、
小橋健太のオレンジクラッシュを食らい、
川田利明のパワーボムを食らい、
田上明の断崖ノド輪落としを食らい、
秋山準のエクスプロイダーを食らう。

お客は、そして視聴者も、三沢の身を案じつつも、熱狂した。
もちろん、相手も三沢の技を受ける。

スティーブ・ウィリアムスは三沢のエルボーを受け、
小橋健太は三沢のジャーマンスープレックスを受け、
川田利明は三沢のタイガードライバー91を受け、
田上明は三沢のエメラルドフロウジョンを受け、
秋山準は三沢の雪崩式タイガードライバーを受けた。

どんなに技を受けても立ち上がり、反撃する。三沢をはじめ、彼らはスーパーヒーローだった。

一流のプロレスラーは、耐久性のある体と技術を持っているので、致命的な怪我は負わない。でもダメージはたまっていく。体はすり減っていく。
三沢の首は、普通の人には無い、たしか「こっきょく」という骨ができて、
下を向きにくい状態になっていたと聞く。
本人は、飄々としたところがあるので、「べつに大丈夫。階段を降りる時に少し不便なだけ」と言っていた。
心配されることを拒んでるみたいに。
そして09年に、広島でなんてことはないバックドロップを受けて、首が限界に達してしまった。

これは、悲しすぎる。どれをとっても悲しすぎる。
簡単に抱えきったり、描写したりできるものじゃない。
今日プロレスする選手達のことを思っても、あんまりだ。
今日観にいくのは、新日本プロレスで、三沢はプロレスリング・ノアの選手。
別の団体とはいえ、同業者が殉職した次の日に、自分達は相手を頭から落っことしたり、殴り合ったりしなければならない。
穏やかな気持ちで試合に臨める人は、いないだろう。
でもわしは、観にいく前からわかっていた。
選手達は、いつもと変わらず、目いっぱいプロレスをする。

実際、観にいったら、思ったとおりだった。
第一試合の前に黙祷があって、超満員のお客さんは、みんな泣いていたけど、
試合が始まると、負の要素は全部吹き飛んだ。
愛を込めて相手を頭から落っことし、祈りを込めて殴り合いをしていた。
とくに、わしと同年代の選手は、とても頑張っていた!
飯伏幸太はムーンサルト・ムーンサルトでリングを跳ね回り、
プリンス・デヴィットはトペコンヒーロで客席まで飛んできた。
全9試合、2時間半、彼らはお客の全部を忘れさせてくれていた。

90年代、ヒーローだった三沢は、09年に、試合中のアクシデントで亡くなってしまった。
今日、大活躍して、みんなの気持ちを吹っ飛ばした飯伏やデヴィットは、
どんな2010年代、2020年代を迎えるのだろう。
というか、わしも、どんな2010年代、2020年代を迎えるのだろう。
でも、プロレスラー達は、とにかく、すごく月並みな言い方だけど、今を生きていたのだ。
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by syun__kan | 2009-06-19 17:16 | 日記 | Comments(0)
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