悲しさについて
日記には、いつもおもしろいことを書こうと思っている。
おもしろいこととは、人と違うこと。みんなが興味深いと思ってくれること。
しかし、世界一おもしろい、興味深い人物が亡くなってしまった直後には、
わしは、おもしろいことなどは全くできず、考えられず、
ただただ凡庸な反応を示すことしかできなかったのであった。
だから、これは、一マイケルファンが、彼の死の翌日以降に、どのような行動を取ったかという、
一つの標本である。
エルヴィス・プレスリー、マリリン・モンロー、ブルース・リー、ジョン・レノン、
彼らの死の翌日に、彼らの熱狂的なファン達は、いったいどのような行動を取ったのかという記録は、
少しは歴史的な価値があるだろう。
今回のわしの日記も、それと同じ価値を持ってくれればいい。

6月26日に彼の死を知ったわしは、その日の夜にネットで、翌日土曜日27日午後6時から、
代々木公園で追悼集会が開かれることを知った。
同時に、同日夜10時半より、青山のバーでお別れ会もあることを知る。
わしは、どっちも行くことにした。

27日、6時15分頃原宿駅に着くと、すでにマイケルTシャツや黒いハットを身につけた人たちがちらほらいた。
代々木公園につくと、入り口前に人だかりがあった。
中心には、マイケルの写真を抱いて泣き崩れるファン。
みんなで『ヒール・ザ・ワールド』(世界を癒そう。もっと良くしよう、という歌だ)を歌っている。
ただし、通りすがりの人たちが「ああ・・・マイケルファンだ」とか言って冷やかしながら通り過ぎて行ったり、
報道各社が写真を撮ったりしていたので、
わしはなんとなくいたたまれなくなってその場を離れ、
公園に入ってしばし散歩していた。
しばらくして戻ってくると、通りすがりの人らもいなくなり、
周囲も暗くなり、追悼集会ができる環境が出来上がっていた。
集まったファンは、200人以上。
皆で持ち寄ったろうそくを、マイケルグッズや写真の周りに並べていく。
確かにしんみりしてはいるが、ふわふわした、掴みどころのない雰囲気だった。
おそらく、みんなまだ、昨日今日のことなので、マイケルが不在の世の中に馴染めないでいる。
わしもそう。実感など全然湧いていない。
すごい数のろうそくが並んだけど、ボーっと見ているだけだった。
そして、久し振りにマイケルファン達の集団に加われて少し嬉しくなっているだけだった。
踊りたいなー、と思ってチャンスをうかがっていた。
そのために、ちゃんと細い黒いズボンと、スニーカーと、ハットを身につけてきたのだ。
なんとなくみんなも、しんみりしたり、ろうそくを並べたりするのに飽きて、ダンス待ちの雰囲気だった。
そのうち、黒人が一人ムーンウォークし、それをきっかけにして、わしは『ビリー・ジーン』(ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない、だからその子どもも、僕の子どもじゃない、という歌だ)を踊った。
他のみんなも踊り始めた。
「リーさん」という、マイケルモノマネのセミプロのような人が中心になり、
その日来た、ダンスができる人たちがバックダンサーになり、
マイケルのビデオクリップやライブの再現をした。
初対面なのに、完コピできる!
うちらは、
『スムース・クリミナル』(アニーが殺されて、アニー大丈夫かい?という曲だ)と、
『ビート・イット』(けんかをしても、ケガするだけだがら、逃げよう、という曲だ)と、
『デンジャラス』(彼女はデンジャラスだ、という歌だ)と、
『スタート・サムシング』(何かを始めよう、じゃないと君は、野菜みたいなやつだ、という曲だ)と、
『スリラー』(今夜君に、どんなオバケよりもすごいスリルをあげるよ、という曲だ)の集団ダンスをコピーした。
『JAM』(私は寺だ、という歌詞のある歌だ)と、
『ヒューマン・ネイチャー』(この街が一つのリンゴならば、僕にかじらせてくれないか、という歌だ)と、
『BAD』(お日様の下に、顔を出してみろ、という歌だ)のダンスは、
難しいのでリーさんが一人でやった。
そうして、夜の9時になった。
わしは青山のバーでのお別れ会に行くために、渋谷に向かった。
渋谷で、Hさんを待った。
渋谷の人たちは、マイケル・ジャクソンのいない世の中を、ちゃんとそれなりに歩いていた。
Hさんが来ると、お腹が減っていたので、とりあえず渋谷のクアアイナに行った。
通常のバーガーにパイナップルをトッピングした、ハワイアンスタイルのハンバーガーを食べていると、
すぐに店内にかかっていた英語のラジオが、『スリラー』になった。
続いて、『リメンバー・ザ・タイム』(覚えてるかい?ビーチで、君と僕!イェー!という歌だ)。
さらに、『ワーキング・デイ・アンド・ナイト』(昼も夜も働いて、あー疲れた疲れた、という歌だ)も流れた。
世の中全体が、マイケルの人生の総まとめに入っているようだった。
マイケルの曲が、クアアイナの良い音響で大音量で聞けるのは純粋に嬉しかったけど、
わしは大好きなサムシングを奪われて、実感が湧く前に後片付けをされているみたいで、
小学校のクラスで教室の後ろの棚の上で青虫を飼っていて、
飼育係のわしは大事に葉っぱをあげて育てていたのに、
わしが休んだ日に青虫が死んでしまって、
わしの知らない間にクラスの女子が勝手に庭の隅の木の下に埋めてしまったことを知らされるような気分だった。
そろそろな時間になったので、Hさんと青山のバーに行った。
バーは、想像していた広さの4分の1くらいで、中はすし詰めだった。
そこで、マイケルが87年に来日した時に、日本テレビで放送された、横浜スタジアムのライブ映像が流されていた。
バッドツアー87、横浜。有名な映像だ。
このときのマイケルは、ものすごく楽しそうに歌い踊っていて、かわいくてかっこよくて、ひとつの究極の状態だった。
ごく控えめに言って、天使だった。
すし詰めの中で、わしはみんなと一緒にマイケルと一緒に歌い、
狭いから大きな動きはできないので、指を立てたり、指先をこすり合わせたりしながら、
はあ、我ながら、なんでここまで細かく、指を立てたり、指先をこすり合わせたりするタイミングを覚えているんだ?と思ったりした。
そしてマイケルは、
「アイルゴナギブユー、ザオールドソングス、ザオールドファッションウェイ」
と言って、ジャクソン5時代の最大のヒット曲である『アイル・ビー・ゼア』を歌った。

(この歌は、愛がある場所に、僕はいるよ、という歌だ。

しかし、ユーアーノットゼアー!)

そう思った瞬間、わしの目から涙が爆裂し、鼻孔から鼻水が暴発し、
わしの顔はあっという間にグシャグシャになってしまった。
マイケル、顔面崩壊は自分だけにしてくれよ。
ライブ映像でマイケルが『ビリー・ジーン』を終えて帽子を客席に投げると、
そろそろ終電なのでわしらは家に帰った。

週末が終わると、またいつもの生活が始まった。
しかし、2・3日経ってから、実感が湧きはじめて、がくっと悲しくなった。
そして、昨日あたりまで、微熱とだるさが続き、体のあらゆる箇所が痛むようになってしまった。
18歳の時に、ジャイアント馬場さんが亡くなって以来、
今まで何人かの、わしが好きだった「有名人」が亡くなるニュースを聞いた。
ジェームス・ブラウン、レイ・チャールズ、ホーク・ウォリアー、クリス・ベノイ、エディ・ゲレロ、橋本真也。
そのたびに、わしはとても悲しかったけど、
非常に不謹慎な言い方になってしまうが、ほんの少し、1%だけ、ウキウキした。
どうしてウキウキしたのか?考えてみると、
わしの頭が、好きな有名人の逝去を、どう消化するのかに、興味があったのだろう。
重ねがさね、大変不謹慎な考え方だとは思うが、
わしは今まで、地面に伏して泣き叫ぶような、何も手につかなくなるような、
本物の悲しさを味わったことがなかった。
だから、自分が味わったことのない感情を経験することに、ほんの少しだけ興味があったのだ。
でも、今回のマイケルの件(もしかしたら、三沢光晴の件も含まれているかもしれない)は、
本当に、わしを部分的に損なっていった気がする。
感想を言わせてもらうと、こんな悲しみは、もう二度と、味わいたくない。

でも、わしはポジティヴイズムで生きているので、
何としてでも、今回の件を、わしの人生にとってプラスにしていかねばならない。
それがミッションだ。
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by syun__kan | 2009-07-12 13:06 | 日記 | Comments(2)
Commented by ガチヲ佐賀3ダース at 2009-07-12 23:56 x
いつもありがとう。初めてのメッセージお邪魔します。

サンコンは美しいな。
またサンコンに会いたいよ

そのときは是非踊ろう

Commented by 関口光太郎 at 2009-07-13 21:17 x
ガチヲさんは、どうな風に踊るんだろう?
まだ見たことないなあ
<< たーまやー はいはい、ちょっと待ってねー >>



現代芸術家、関口光太郎の日記。
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