全力疾走はしたか。
子どもの頃はよく全力疾走したものだ。
大人になると、パッタリと、その機会がなくなる。
他人事になる。
正月にコタツで、タスキリレーして倒れこむ駅伝選手を見て「あらあらまあまあ」とか言う。
お盆にリビングで、アイスコーヒーを飲みながら高校野球児の盗塁を見る。
大学時代に、友人のサトウ君と、試しに、道で50メートルくらい、本気で競走してみたことがあった。
ちなみにわしらはどちらも美大生で、運動場の砂埃よりテレピンの匂いに親しんだクチだから、
若くから比較的運動とは縁遠かった。
スタートすると…記憶があいまいなのだが、
確かどちらかの選手のポケットから携帯やMDプレーヤーが飛び出してアスファルトに叩きつけられ、
どちらかの選手は空気につまづき、見えない何かに足を絡めとられて、転んだ。
つまり、わしらは、普段から全力で走ることなんてできない前提で生きているのだ。
走れるつもりでいたでしょう。
大通りの向こうから、キョシンヘイやらオームやらゴジラやら使徒やらが追いかけてきたら、
結構みんな、すぐに反対方向に向かって、
もしかして、全力で走って逃げられると思ってるでしょう。
できないできない。
たぶん多くの人はこける。ポッケから、ゴニョゴニョした機器がボーンて飛び出る。
わしの職場では、週一回、グランドを3周走って、タイムを取る。
いつもは生徒に声援を送ったり、遅れている生徒の手を取って併走したりするだけなのだが、
今日は自分も本気で、3周走ってみた。
わしは人間らしく二本の足で走ったのに、腕が筋肉痛になった。
疲れが夜になっても確固として残っている。
たぶん明日も残っている。
子どもの頃は、こんなことにはならなかった。
運動不足とは、かくもスムースに肉体を下り坂にせしめているのである。
うむ。おやすみなさい。