欝は治る

素晴らしいことに、奥さんは鬱から回復しつつある。
プランターの土から、丸い種の外壁を頭にかぶせた芽がうなだれながらも出てきて、
やがてきおつけし、種の外壁を脱ぎ落として双葉をつけるように。
支柱さえ立ててやれば、巻きついて自ら伸びる。
夕方になれば今日の午前中より伸びてる。
そんな5月のエダマメのように。
その前向きなエネルギーはわしを上回る。
3年位前から病院通いで、一日の四分の三は寝ていたのに、
最近は朝ちゃんと起きる。
節約レシピ冷凍テクみたいな本を図書館で借りてきて、読んで、
読むだけじゃなくて本当に実行している。
作るメニューは日に日にレパートリーが増え、
鶏の胸肉をヨーグルト味噌に漬けて柔らかくしたりとか、
複雑なことをやりだした。
なんだかぼけっと生きているだけじゃ考え付かない調理法を取り入れだした。
しかし実際に鶏胸肉は柔らかくなっているのである。
冷凍庫の中は、これまで存在を忘れ去られた冷凍餃子とこのまえの家飲みであまった氷しか入っていなかったのが、
最近はジップロックに入れられた下ごしらえされた食品が整然と並んでいる。
冷蔵庫の中は、練りショウガやおろしにんにくのチューブが、ばらばらと倒れているのではなく、
奥さんが100円ショップで買ってきた、そういったチューブを立たせるグッズによって、
やはり整然と、立っている。
そしてわしが朝、ぼけっと、ひげそりや電子レンジを使おうとすると、動かないのである。
奥さんが待機電力がどうのとか言って、使っていないコンセントを抜き出したからだ。
そして実際に、電気代の前年同月比は、30パーセント安くなっているのである。
奥さんは「しおひがりいきたい」と言い出し、
この間本当に行ってきた。
朝6時に起床するという必要性にちゃんと対応してくる。
今年の年始の高尾山登山の時は昼近くにならないと起きられなかったのに。
神奈川の海岸に着くと、夫婦でせっせとしおひがる。
家族連れに混じり、浅瀬の砂を掘り起こし、アサリを漁る。
二人で4キロのアサリを獲った。
砂抜きの方法も、奥さんはちゃんとネットで調べているのである。
大量のアサリを、洗ったり塩水に浸けたりして、就寝。
しかし翌朝、奥さんが呆然としているのである。
顔面蒼白で、おろおろし、「どうしよう…」と繰り返し、今にも泣き出しそうだ。
聞くと、二つの容器に分けて塩水に浸けておいたアサリのうち、一つは、アサリがたくさん殻を開け、にょろにょろと水を吹きまくっている。
しかしもう一つは、反応がなく、殻が閉じたまま、砂が出ていないというのである。
閉じたままの2キロのアサリを見て、「死んじゃったのかな」と、おろおろしているのである。
いやいや、どうせ生きていてもわしらが食べて殺してしまうのだし、4キロのアサリが2キロに減ったところで、二人暮しの我が家にそんなに影響ないのでは。
と思うが、奥さん的にはショックなのだろう。
とりあえず、無事に砂を吐いたアサリを塩水から出して冷凍し、
反応が無いアサリを、砂を吐いたアサリが入っていた水に移し変えて様子を見よう。
ということにして、焦燥しているままの奥さんを残し、わしは仕事に行った。
調子が良くなったとて、完治した証明があるわけではない。
人間の精神的コンディションなんて、移り変わる天気のように危ういものだ。
仕事から帰ってくると、反応が無かったアサリは、無事、皆殻を開け、にょろにょろと、にょろにょろしたもの(口?)を出し、ピュッピュと水を吐いていた。
この大量のアサリがいっせいににょろにょろしている光景は、こういっちゃ何だがけっこう気持ち悪い。
でも奥さんの顔は晴れやかに戻っているのである。
やあ、良かった。
その日から、我が家ではいろいろ調理法を変えながら、アサリ料理が並ぶ。
奥さんがクックパッドとかで、いかにいろいろな方法でアサリにアプローチするか、研究しているのである。
ボンゴレスパゲッティやアサリご飯はまだ作り方が想像できるが、
「アサリのしぐれ煮」なんて作り方が想像もできやしない。
冷凍庫には、ジップロックされた冷凍アサリが整然と並んでいる。
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by syun__kan | 2012-04-28 21:05 | 日記 | Comments(3)
Commented by ねぎみそ at 2012-04-29 21:07 x
よかったね(^_^)
料理はいいよ。
うちは今夜カレー。
Commented by 読者 at 2012-04-30 14:27 x
うん、素晴らしいことだ。
うちも今夜はカレー。
Commented by 関口 at 2012-04-30 17:16 x
うちはハンバーグ。
生活を消化していけることの素晴らしさよ。
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