文化的決壊

職場の最寄り駅のレンタルビデオ屋さん「サンセット」に行ったら、閉店セールをしていた。
ビデオを、一本200円で買えるようになっていた。
わしは走った。ATMへ。
給料日前で財布には200円しかなかったからだ。
仕事帰りでくたくたに疲れた28歳だったが、本当に走った。
小遣い以外の貯金を崩すことは基本的にはご法度である。
しかし今回は別!なのだ。

このビデオ屋さんは、特殊なのだ。
プレハブみたいな2階建ての殺風景な建物。
1階はまだいい。売れ線と思われるDVDが置いてあって、ツタヤとそれほど変らない気もする。
しかし2階は!
色褪せた、ビデオテープ、いわゆるVHSが、誰もいない部屋に、蛍光灯に照らされ、兵馬俑のように整然と、カタコンベのように天井までぎっしりと並んでいるのだ。
15年前で時が止まっている感じだ。
そしてその品揃えは、徹底的。
いや、徹底的に集めた豊富な品揃え、と言う感じではなく、徹底的に「捨てなかった」という感じの、堆積した品揃えで、とにかく何でもある。
ポアトリンだろうと流星人間ゾーンだろうと機関車トーマスだろうと、テレビ放送第一回から、全部ある。
復刻版ではない。当時発売のVHSのまま、限界まで色褪せたパッケージで、「7泊8日OK!」と貼られている。
しかしお客さんがいつもほとんどいなく、貸し出し中のビデオもほとんど無く、これでビジネスは成り立っているのかしらん?と思ってはいたが。

わしとしては、プロレスものの品揃えが非常に魅力的だった。
幼い頃にテレビで見た、90年代の映像が数百本のビデオになって存在しているのを初めて見たときは、
獣神サンダーライガーに掌底を食らった後に武藤敬司にフランケンシュタイナーされたような衝撃と、ときめきがあった。

でも、「いつでも借りれる」と思っていると、なかなか利用しないもので、
この5年間で5本くらいしか借りていなかったが。

それが今目の前で、突如200円で売られているのである。
本当に突如だった。
店に入ると、いつもよりお客さんがいる。
といっても5人くらいの、全員おじさんだが、皆静かに色めき立っているのである。
わしはその場で1時間かけ、17本のプロレスビデオを厳選した。
他のおじさんは、数十本の、古い邦画のテープを抱え、
「10本減らそう。でも、これも大事だよなあ~…」とつぶやき、悩んでいる。

皆、サンセットの閉店に対し、「いつも借りに来なくてごめんね」と思いつつも喜び、
人と共有しづらい、個人的な興奮を抱えていた。

映画人間である友人の三宅感氏とならこの興奮を共有できるだろうが、まさかビデオ屋の閉店セールのために、遠い道のりを呼びつけるわけにもいかない。

わしは翌日も訪れ、さらに16本のプロレスビデオを購入した。
計33本、6600円なり。
これで今月は、もう何もぜいたくはできない。

でも心は、晴れ渡る青。
わしは半永久的に暇を潰せる。
昨日、一本観てみた。
暴れまわるトニーホームと長州力で、画面は幸福の肌色。
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by syun__kan | 2012-05-20 10:25 | 日記 | Comments(0)
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