血まみれ

流し台で洗い物するときの楽しみとして、
携帯のワンセグでオリンピックの中継、およびニュースを観ることを覚えた。

スノーボードのハーフパイプという競技では、中学生と高校生がメダルを獲ったらしい。
さらにフィギュアスケートでは、羽入さんと言う選手がかなり活躍し、
昨日夜の時点では、史上最高得点を出してトップに立ち、
その夜遅くの結果いかんによっては金メダルなんじゃないかという状況だった。
羽生選手のパフォーマンスは、携帯電話の小さい画面からも伝わってくる、
何だろう、オーラと言うか、ビリビリした何かがあり、
かなりすごかった。
羽生選手も10代であり、10代とは思えない図太さ、
いや極端に若いからこそ持てるのだろうか?そういった自信を漲らせていて、ポエティックだった。

こういった状況を踏まえ、わしは夕飯の、奥さんが作ってくれた牛肉と小松菜と厚揚げを炒めたものを食べながら、しゃべっていた。
感じた何かを、口をパクパクさせて伝えようとしていた。

「10代って言えばさ、若者というより、ほとんど子どもだよね。
こういった子どもたちが活躍してるって言うのは、何だか良いと思うんだよね。
何だか痛快だったんだよね。
何でだろう?
何というかさ、若い世代って、何だかんだと大人にぐちぐち言われて、
今の子どもはあれがだめ、これがだめ、
学力がーとか、体力がーとか、コミュニケーションがーとか、
ゆとりがどうのとかさ。
ゆとり教育はもう終わってるのかもしれないけどさ。
昔はこんなに良かったとか、
そんなこと言われてばっかりじゃない。
子どもからはそういう風に発信する口がないからさ。
でも今回みたいに子どもたちが図太く活躍するのって、そういう大人たちを黙らせ、
どあー!!!

わしは突然叫び、イスごとそのまま後ろに50センチ下がった。
そして右を向き、口に手を当てて静止する。

奥さんが「どうしたの?」と聞く。

「くちびる噛んだ」

と答えてティッシュを当てる。ティッシュに血がにじむ、
いや、けっこう赤く染まった。
裏返して当てる、また赤く染まる。
唇を噛んでこんなに血が出たのは初めてだ。
だいたい、人がたまに、一年に4回くらいか?くちびるを噛んでしまうことが、解せない。納得できない。
普段普通に回っているタイヤが、ある日突然車体をこするようなものだ。
歯とくちびるの動きが、なぜその時だけうまくコンビネーションしないのか。
人体の神秘ってその程度か。
いつも突然襲い掛かる、原因が分からず防ぎようがない。
いや、今の事象に関しては、何となく原因が分かる気がする。
10代の選手の活躍について、感じたことを、
頭でまとめてから話すのではなく、話しながらまとめようとしていて、
さらに小松菜を噛み砕こうとしていたから、
わしの能力のキャパシティを超えたのだろう。

当てていたティッシュを再び離すと、今度はティッシュが傷口にへばりついてビリビリ剥がれた。
少なからずやけっぱちのわしは、ティッシュの切れ端をなめ取って飲み込む。
そして、さっきより小さい声で、しゃべることを再開する、

「…そしてさ、フィギュアスケートも、スノーボードも、」

奥さんが「だいじょぶなの」と聞く。

「ああうん。スノーボードも、基本的に個人競技でしょ。
みんなでわいわいやるものじゃないよね。
たぶん、こういう競技って、メダルを獲るレベルになるには、
すんごく孤独な戦いをすると思うんだよ。
同世代の友達と、だらだらしたりいちゃいちゃしたりとか、
そういうのに背を向けてさ。
なんか世の中って、みんなでわいわいやることが正しい、みたいな圧力があるじゃない。
一人でごはん食べるとさみしいとかさ、空き時間に友達といないとだめみたいなさ。
わしはさ、そういうわいわいしたことは苦手なわけで、
高校では一日一言も発しない日とかあった。
それにくらべれば多摩美の彫刻科は居心地良かったけど、
それでもわいわいしたものは馴染めなくて、
道具の使い方とか、FRPの型の取り方とか、先輩に聞きに行くの嫌で、
だから、一人で全て進められる新聞紙とガムテープの工作やってたところがある。
でもその、わいわいから離れて一人でモショモショやり続けていたことが、成果に出たようなところがあるわけで、
今回のスノーボードの選手や羽入さんの活躍を見ると、なんだか共感するんだよね。
みんな仲良く的なファシズムから離れたことによる成功みたいなさ。
まあわしは、今は血まみれだけどな」
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by syun__kan | 2014-02-15 16:41 | 日記 | Comments(0)
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