人間

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

わしは暗い海の中を漂っている。
まん丸の体。
子どもがクレヨンで丸く落書きしただけみたいな体だ。
自分から動くこともできない。
どっちが上か下かもわからない。ただフワーッと漂う。
なんて気持ちが良いんだ。
どこまでも続く海。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

わしの体には、気づくと手足のような突起ができていた。
これでゆっくりではあるが、思った方向に進めるようになる。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

また音が鳴って、しばらくして止んだ。何の音だろう?
わしの体は長くなり、左右に無数の足が生えて、
水の中をうにょうにょと進んだ。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

いつの間にか魚になっている。
すいすい進める。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

音が鳴って、止むと、ひれが指になっていた。
浅瀬に近づく。海の底に手を着くと、水面から顔が外に出た。
呼吸のシステムが変わったみたいだ。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

まったくさっきから何の音だ?うるさいなあ。
陸に上がって、地面を這い出す。
そのうちスムーズに歩けるようになってきた。
体もだんだん大きくなる。木よりも大きいぞこれは。
がおーと吠える。けっこう楽しいじゃないか。わははは!

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

わしの体に毛が生えた。もっさもさだ。
ふと、となりにも何か別の生命体がいるような気配を感じた。
誰かいる。
そうだ、これは、奥さんというやつではなかったか?
寝転がって、うごめいている。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

この音は…
アラームというやつだったけ?
奥さんと思われる物体は、何かもうひとつの小さな生命体を持ち上げて、
わしの顔の前によこした。
ぼんやりと顔が見えてきた。
オサルサンのような顔。
わしは瞬間的にめんどくささを感じた。
そう、この生物は、絶えず何かを要求する。
何かしてやらなきゃならない。
手間がかかるんだ…
海で一人で漂っていた時代が懐かしい。
あれは楽だったなあ…

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

それでも、めんどくさいながらも、わしはオサルサンの顔を見て、本能的なものだろうか、話しかけた。
オサルサンの表情が変化する。
もう一度声をかけると笑った。
わしの心にほんのりと嬉しさが宿る。
そう、やはりこいつは、かわいいんだ。
こいつを喜ばせたいんだった、わしは。
だんだん思い出してきた。
さっきから鳴っているあの変な音は、
わしの携帯のアラームが、スヌーズ機能というやつで、スイッチを押して止めるまで5分おきに鳴り続けているんだ。
5時半にセットしたはずだから、今何時だ?けっこうな時間になっているんじゃないか?
もうだめだ、時間切れだ。
奥さんと、生後半年のマイベビーのために、わしは世の中に加わっていろんな事象と関わり、働いてくる必要がある。

ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり ぴろりろり

わしは二本足で立ち上がって、人間に進化した。
[PR]
by syun__kan | 2014-06-08 10:19 | 日記 | Comments(0)
<< ボリさんも人間に 短編集未遂 >>