格言おじさん

「アーティストは普通のことで悩んではだめだ。
普通の悩みとは、サンマーク出版の本とかにすでに答えが書いてある悩みのこと。
冷静に考えれば答えなんて分かっている悩みのこと。
そういうレベルの悩みに引きずられていると、普通の人生のねばねばに足を取られて、
普通から離脱できなくなる。
普通からフ!と飛んで離れて見せるのがアーティストなんだから」

と、道沿いの雑木林からわしの目の前に飛び出してきたおじさんは言った。
何がなんだかわからない。
わしは帰宅中の自転車。

「でも、普通からフ!と飛んで、離脱しても、遠くに行き過ぎてはだめだ。
あくまでも、普通の人たちに見せ付けられる範囲で飛ぶんだ。
誰にも見えないところまで飛んでいってしまうと、それはただの変なおじさんだ」

とおじさんは言う。
そういう髪の毛はぼーぼーで、ひげももしゃもしゃだ。
名乗ってもいない。

「誰ですか?」

とわしは聞く。

「わしは、未来から来た君だ。
君は今30歳だけど、そのうち40歳になったり50歳になったりする。
しばらく生きてみて、得たことを、
あらかじめ格言にして君に授けようと思って」

とおじさんは言う。
先ほどからしゃべっていることは、格言らしい。

「じゃあ次行きますよ」

と前置きした。

「人に対して、なるべくイラッとしないように。
イラッとしないということは、逆に相手との格の違いを示すことだ。
イラッとしてしまうと、それは相手の次元に引きずり込まれたっていうことになる」

「ああはい」と、わしは答える。
おじさんは続けて、

「止まるな、動け。止まると濁る。
止まりながら考えたことに意味は無い」

と言った。
なんだかそれは、わしも考えたことのあることだった気がしたので、
このおじさんが、本当に未来から来た自分なのではないか、と思い、
わしはおじさんを改めてよく見た。
カラフルでしわくちゃのシャツ。
ぼさぼさの髪とひげは、あえてそうしているのか、そうならざるを得なかったのか。

「じゃあそろそろ帰ります」

と言って、唐突におじさんは回れ右して雑木林に入っていった。
わしがあわててのぞくと、おじさんは5メートルほど立ち入ったところで、
中腰に体を沈めて精神統一していた。
そのまま動かない。
体一つでタイムワープするのだろうか。
タイムマシンとかはないのだろうか?

しかし、しばらく見ていても変化が無かった。
あまり帰るのが遅れるとボリさんの子守をしている奥さんも怒る。なので、
わしは、「時間かかりますか?」と聞いた。
おじさんは、

「何もしていないやつは、何かしているやつに対して文句を言う権利は無い」

と言ってきた。
どうやらそれも格言らしい。
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by syun__kan | 2014-07-18 23:11 | 日記 | Comments(0)
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