アートの小話をひとつ

学生の頃、上野に伊藤若冲の展示を観に行った。
下宿先の最寄り駅、「橋本」から京王線に乗って、山手線に乗り継いだ。

美術館は激混みだった。
中高年の方々で埋め尽くされていて、184センチのわしでもなかなか作品が視界に入らない。
どうしてこんなに混んでるんだ?…自分が来るからか。
しかし他の要因にも思い当たる。
お客さんが口々に、NHKの日曜美術館で放送していた知識を口にしているからだ。
そういえば確かにこの間、やってたわ、日曜美術館で。

日曜美術館は、視聴すれば、その作家や作品について、誰でもすっと入って行けるように、とても良く構成されている。
うまい解説、作品が生まれた背景、裏話、それらがあれば、美術の間口がグッと広がる。
ググッと広がる。
ググググーーッと…

荒波に揉まれてようやく目の前に提示された伊藤若冲作品は、やはり見るべきものがあった。
特に墨で描かれた鶏の連作の強烈な躍動感は今でもよく覚えている。

その後再び中高年の方々ともんじゃ焼きのようにぐるぐるなって、美術館の出口からわしは排出された。

西日に照らされた京王線で、わしは帰った。
すると、もうすぐ橋本というところで、左の窓から鉄塔の群れが見えた。

鉄塔。各地に電気を送る送電線を身にまとったグレーの塔、
その、複雑で幾何学的に入り組んだ内部構造が重なり合い、
逆光で影になりつつも陽を反射してピカピカ輝き、壮絶な美しさを見せていた。

わしは釘付けになって、それを目に焼き付けた。
しかしというか、当たり前というか、車内で鉄塔を見ているのはわし一人。
わしはその時、

「日曜美術館で予習してアートを楽しむのも、大いに結構である。
素晴らしい余暇活動だと思う。
だけどこの景色を見て感動できなければ、本当じゃない!」

と思った。
若いね!
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by syun__kan | 2015-01-02 22:31 | 日記 | Comments(0)
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