すべてがハルになる

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その人が生まれて初めて話した言葉は何か。
それは、けっこう大事なことだと思う。
わしも、ボリさんが何を最初に話すか、注目していた。

そりゃ、1歳になるまでの間にも、ボリさんはいろいろなことをしゃべっていた。
もっとも多く話していたのは、
「あま」「うま」「もんま」
である。
しかしこれらは、
「海女」、または「尼」「馬」「門馬」
を表しているわけではなく、
口の動くままに発した言葉が、たまたまそう聞こえただけである。

これでは、「最初に話した言葉」とは言えない。
音声は、意味と結びついて、初めて言葉となる。

しかし1歳を迎え、ボリさんもついにその瞬間は訪れた。
部屋をとことこ歩いている、ミニチュア・ピンシャーの愛犬ハルを見て、
「はーう!」
と言っているのである。

最初は「たまたまか?」と思っていたが、
「はむちゃん!」
とも発声したとき、確信に変わった。

これは、明らかに実物の「ハルちゃん」と結びついている!
わしや奥さんが、普段から「ハル!」「ハルちゃん!」と呼びかけているのを聞いて学び、
ボリさんはついに言葉を獲得したのである。

さらなる感動は、しばらく経った後に訪れた。
わしがボリさんに、給仕していたときのこと。
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コップに描かれた、「リサとガスパール」の絵の、
黒いほうのキャラクター「ガスパール」を見て、
おもむろに指差し、
「…はむちゃん。」
と言ったのである。

これはすなわち、概念の拡張だ!
家の中をうろついているあいつが、世界で唯一、「ハルちゃん」なのではなく、
絵に描かれた、黒くて顔が長くて耳のあるあいつも、同じ「ハルちゃん」であるということ。
まあ正確に言えば、ガスパールはミニチュア・ピンシャーではないので、
誤認識といえばそうだが、
許せる範囲だろう。
家にいるペットが、キャラクターグッズを展開しているというのも、おもしろいではないか。

しかしその後、事態は変わる。
同じく我が家のペットである、トラ猫のコマちゃんに対しても、
「はーむ。はむちゃん!」
と呼びかけているのである。
確かにコマちゃんは、ハルよりも姿を見せないので、わしや奥さんが名前を呼ぶ機会が少なく、覚えづらいのかも知れない。
「あれはハルちゃんじゃないよ。コマちゃんだよ」
と教えても、いっこうに「はむちゃん」と呼び続けるボリさん。

さらに、動物図鑑を見ながら、全てのページの動物に、
「はむちゃん」
と呼びかけるボリさん。
確かに、黒いクマに対しては、確信に満ちた声で
「はむちゃん!」
と言っているのに対し、
クジラに対してはやや懐疑的に
「…はむちゃん…」
と言っているので、
「黒さ」「四足」が、「ハルちゃん的要素」のバロメータにはなっている気がするが。

家にある、動物を模したキャラクターグッズにも、「はむ」と呼びかけるボリさん。
特に風呂場にある、ペット用シャンプーの、犬の形をしたボトルには、
急病人に呼びかけるかのように、押さえつけて
「はむちゃん!はむちゃん!はむちゃん!」
と連呼。

そしてついに、イスに座っているわしのふくらはぎをペシペシ叩き、
「はむちゃん」
と一言。

ああ、これは完全に概念の誤拡張といわざるを得ない。
わしはミニチュア・ピンシャーではない。人間だ。

ブラックホールのように、様々なものを飲み込み、拡大する「ハルちゃん」の概念。

しかし奥さんのことは、「はむちゃん」とは呼ばないとのこと。
奥さんはハルちゃんではないようだ。
ボリさんにとって、世界は
「自分」「お母さん」「その他はだいたいハルちゃん」
という感じになってきている。

ベビーカーの乗って外の道を走りながら、
歌うように
「はむちゃ~ん。はあ~む!はむ!はむ!はむちゃ~~ん!」
と口走るボリさん。

「ハルちゃん」は、一種の流行語となったようだ。
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by syun__kan | 2015-03-09 22:56 | 日記 | Comments(0)
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