宵越しのシールは持たない

わしが小さいころ、
たぶん5歳かそこらだったんじゃないかな?
仕事から帰ってきた父が、出し抜けに、車のおもちゃをくれたことがあった。
その時の印象を覚えている…
サプライズというかセレンディピティというか、
車のおもちゃ自体が嬉しかったというより、
全く期待していなかったのに良いことが起きたというささやかなインパクトが、
唯一無二だったのだ。

それ以来、しばらくの間、父が帰ってくるたび、
わしはささやかな期待感を抱いた。

しかし、(記憶が正しければ、)そんなことは二度と起こらなかったのである。

だからしばらくののち、わしの期待感は形を変え、
父が帰るたびに、

「ああ、あの時は嬉しかったなというかびっくりしたな…」

と思うようになった。
まあ、基本的に父のことは好きだったので、おもちゃなどなくても帰ってくるのは嬉しかったが。

ところで年度末の今日、
わしは職場の自分の机を片付けていて、
ふと、何年か前に動物好きの生徒のために買って、使わずに残っていた、
動物シールシートを見つけ、
持って帰った。

家に着くと夕食時のボリさん(2歳3か月)が、
台所から
「ちゃばちょば」
等、わけのわからないことを話しながら出て来て、
段差でバランスを崩してごろんと転んだ。

わしは持っていた、動物シールシートを差し出した。

ボリさんの、最近得意のヤンキー顔をでしかめていた表情が、ぱっと和らぐ。

その時、わしの頭を、父が車のおもちゃを買ってきた一連の記憶がかすめた。
ボリさん、これは今日だけだ。
わしは明日もシールシートやそれに類するファンシーグッズを持って来るわけではない。
それでも、君は気落ちせず、生きて行けるのか。
わしを温かく迎えてくれるのか。

ボリさんは手に取った動物シールシートの包装ビニールを剥がし、
さっそくメモ帳に貼り始めた。
まずはチーター、次はゾウの親子…
どんどん貼る。

そんな、一気に貼っていいのか。
毎日少しずつ貼るという考え方もあるぞ。
明日は無いんだぞ、お土産は。

しかしボリさんは、「草」「岩」を残し、動物をすべて貼ってしまった。

ボリさんの住所は埼玉だが、県境のため、生まれた病院は東京なので、
出身地は東京である。
江戸っ子は宵越しのシールは持たないのかもしれない。
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by syun__kan | 2016-03-25 23:49 | 日記 | Comments(0)
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