春季合宿

急きょ前橋の実家へ帰った。
制作のためだ。
この春休みに、2、3日はやらなきゃな、と思っていたのだが、奥さんやボリさんとの予定もあり、
日程を決めかねていたが、前日になって
「明日から2泊3日で行ってきていいよ」ということになり、
3月30日。
朝5時に起きて、洗い物等を済ませ、
ナイフ、ランプ、カバンに詰め込んで、というのは嘘で、
リュックにパソコンと下着だけをつめて、
起きるか起きないかといった時分のボリさんに手を振って。

夏に行う、広島市現代美術館での展示・WSのための制作。
東京埼玉の県境の住処から、前橋までは3時間。
両毛線、妙にあか抜けた女の子のグループ、
電車ドアの手動開閉ボタンに驚いてはしゃいでいる、群馬の人ではない。

到着した前橋、お正月以来。
いつもは実家の人に迎えに来ていただくのだが、レンタルサイクルが新しくできているらしいということで、
北口出て西へ向かうとガード下、確かにあった。
1日200円。
2泊3日なので600円前払いして借りる。
この取り組みは素晴らしい。というかまさに我が意を得たりのシステムだ。
広い道を走って実家まで15分。

父は仕事、母はわしと入れ替わりに用事で東京へ出ており、わしは実家に一人。
荷物を置いて、自転車で勇んで、北関東が誇る天下のホームセンター、カインズホームへ。
まだ11時。わしだけの掛け値なしのブランニューデイ、ワクワクする。

芯材となる角材を買う。
杉と松とホワイトウッドの性質の違いと尋ねると、おじさんが特盛ありったけの説明を返してくれる。
4本の束を10束買う。
自転車で実家へは運べない、
貸トラックを借りる。
掛け値なしのペーパードライバーのわしはたぶん10年ぶりくらいの運転、
アクセルとブレーキどっちが右だったっけとそればっかり考えながら乗車、
シートベルトを締めて、傍らのエンジンブレーキとかレバーを目にして「何だっけこれ」となる。

しかしながらカインズホームから実家へは教習所よりも簡単なコース、
無事角材を届け、カインズホームの駐車場に戻ってくるわし、
問題は駐車だが、
今までで一番うまく停めることができて満足、
停まっている様子を写メする。

靴下と針金も買って自転車で実家へ、
頭を制作に切り替えるために、黙りこくったり、チョコを食べまくったり、叫んだり、歌ったりする。

博物館には遠い昔の物か、遠い場所の物が置いてある。
美術館に展示するものも、日常から遠いものでないといけない。
しかしわしは遠い昔に行けるマシンを持っていないし、遠い場所に行く余裕もないので、
せめて、精神的に遠い所に行かなくてはならないのだ。
だからそれにはしばらくかかる。

角材を切りまくり、ビスで留めまくって王子様の頭の芯材を作る、
そう、夏の広島では、すでにあるわしの作品「大人魚姫」と対になる、
大きな王子様を、来場者と共に作るのだ。

芯が完成し、新聞紙をガムテープで巻き付けて肉付けを始める。
どんな顔にしようか決めていなかったが、黒人の王子様も面白いかなと思い、
ティーンの頃のマイケルの写真をプリントアウトして参考にしながら作る。
しかし自分に似てきてしまう。
自分に似てしまうというのは、造形活動ではよくあることだ。
夕方に母が戻ってきて、夜に父も仕事から帰ってくる。

わしは深夜まで制作を続ける、風呂も入らない。歯も磨かない。
2時間集中し、15分ほど倒れて休憩、その後1時間半ほど集中し、15分ほど倒れ休憩、その後また集中して制作し、持続が1時間くらいになったら限界で、2時間ほど仮眠、すると少し元気が戻って2時間集中できる、そんな感じの繰り返しだ、制作は。そして朝が来た、母が連載テレビ小説「あさがきた」を観ている。
3月31日になった。
いったん入浴する。

わしの作っている王子様の頭部は、だんだんマイケルに近づき、良くなってきているものの、
顔の大きさが150センチくらいになってしまっている。
「大人魚姫」は全長630センチくらいなので、王子もそのくらいの身長になってほしいのだが、
王子が7頭身だとしたら頭が150センチだと身長10メートルを超えてしまう。
これはいかん。

どうしようか、考えに考え、
結局わしは、頭の内側の芯材をのこぎりで切って縦横に短縮した。
肉付けをかなり進めた段階で骨組みを大改造する彫刻家はわしくらいだろう。
何たる行き当たりばったり。
芯を作る時点で、どのくらいの顔の大きさになるかくらい、計算できそうなものだが。
やはり大型作品を作るが久々だから、ブランクが響いているのか。
いや、何となく、あえて適当に進めている気もする。
適当に進めることで、このような軽い感じのトラブルが続発し、
それを無理やりにでも何とかしようとすることで、思いもよらない形ができるのだ。
わしは天才ではないので、いくらじっと考えてもみんなの想像を超える発想は出てこない。
偶然性や閃きに頼るしかないのだ。
だから敢えて、あまり計算せずにどんどん始めて行ってしまうのかもしれない…
自分でもよくわからない。

顔は、とりあえず横幅を60センチくらいにしようということで、左右から押しつぶすことにした。
さっきまで丁寧に接していた顔を、横倒しにして踏んづけ、芯を組み直す。
その結果、王子の顔は面長になり、ライオネル・リッチーのようになった。
鼻を整形してイケメン化すると、パープルレインのプリンスのようになった。
そんなこんなで、31日は大体終わる。

いや、終わらない。サイズの件で回り道をした。
寝ずに、頭部を作り続ける。
4月1日になり、「あさがきた」の主人公の旦那さんが主人公の腕に抱かれて亡くなる。
めざましテレビの加藤アナも卒業で、マスカラの溶け出した黒い涙を流す。
わしは母と並んで納豆を食べながらぼんやりする、
いや、意外とぼんやりしていない、
二晩まともな睡眠をとっていないが、頭はしゃっきりしていて、
体も休息を求めていない。
2日かけて、ようやくモードに入ったということか。

作品を作り込む、徐々にいい顔になってきた。
18時には電車に乗って、東京埼玉の自宅に戻らなければならない。
それまであと○時間…

最後あと40分というところで、やっぱ面長は子どもっぽくないから止めようと思い、
顔の下半分を引っぺがして中の芯を再度短縮し、
縦方向に顔を縮める大手術を行う。
これで顔の大きさは、100センチほどになった。
7頭身としても、身長700センチに収まる。
大人魚姫とも釣り合うのではないか。
表情もなかなか美少年風になってきた。
わしの顔だったのがティーンのマイケルになり、ライオネル・リッチーになり、プリンスになり、美少年になったのだ。遠くまで来たものだ。

片付けもそこそこに、レンタルサイクルで全力疾走し、18時15分の電車に間に合った。
3日間あったはずだが、入浴は一度しかしていないし、歯もろくに磨いていない。
教員としてはめちゃくちゃな赤点だ。
春休みだから許してほしい。
公務員的な価値観とロック的な価値観を行ったり来たりするのが、美術担当だったりする。
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by syun__kan | 2016-04-02 00:11 | 日記 | Comments(0)
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