さいたま新都心に近づくにつれ、子連れが目立つようになった。
混雑する駅の階段を、片腕にベビーカーをぶら下げ、
片腕に2歳児を抱いて降りるお母さん。
かなりの体力を要する動作だが、
彼女はブレない。
決して転ぶことはない。
母とは基本的にそういうものだ。
さいたま新都心に着くと、そこは小さな子どもを擁する家族連れで沸騰していた。
電車での移動に疲れて泣く子、なだめる親御さん、怒る親御さん、待ち合わせを呼ぶ声、トイレを探す声等々、
わしは「あびってる」とつぶやく。
「あびってる」とは、「阿鼻叫喚になっている状態」を表す、うちの家族内で通じる略語である。
うちもそのあびってる一部である。
奥さんの友達の親子に誘われ、
今日はさいたまスーパーアリーナでの、「おかあさんといっしょ」のライブステージを観に、
親子3人で来たのである。
会場が近づくと、
キャラクターのぬいぐるみと記念写真を撮れるコーナーが設置されていた。
開演までの時間、並んでみた。
どこかのお父さんがしゃべる、
「スーパーアリーナ前に来た。ケツメイシのライブで」
そう言われれば、わしも来たことある。
誰かのコンサートだったか、格闘技のイベントだったか。
若いころに。
10代、20代の、揺れるお年頃さ。
でも、父親になった今日は、「おかあさんといっしょライブステージ」を観に来た。
ここにいるみんなそう。
世の中の、メインカルチャーは、
めざましテレビで紹介されるようなメイン中のメインは、
10代、20代の若者に向けて放たれている気がする。
ちょうどこの、長い列を誘導する、バイトのスタッフさんのような。
ゼリーのように揺れる、お年頃に寄り添う、音楽やゲームや電子機器やカフェやお菓子。
しかし今日ここに集ったのは、
もう揺れてない、ブレてない、
カチカチ?がちがち?パサパサ?モロモロ?に、
ある程度固まって、
音楽もゲームも電子機器もカフェもお菓子もそれほど、真剣に興味があるわけではなくなり、
ある程度背負うものを背負って、ある種の凄みを若干漂わせた、親たちと、
まだ固まるどころか、プルプル揺れる予兆さえ見えない、
まだゼリーにならない、しゃばしゃばの液状なくらいに人として未完成な乳幼児なのであった。
しかし、そんな親と子には、そんな親と子向けの、
カルチャーと言うものがあるのさ!
それがムームーであり、ガラピコであり、ムテキチであり、あつこお姉さんなのである!!
うちにはテレビがないので、予備知識が全くないのに、
キャラクターやおにいさん、おねえさんを気に入り、
ステージを見つめて手を振るボリさん(2歳8か月)。
ステージで歌い踊り、「今この瞬間を生きる!」といったパフォーマンスを繰り広げるのは、
わしより遥かにしっかりしているように見える、若者たちだった。