職場で仕事しながら、敷地内を行ったり来たりしていたら、
屋外のコンクリートの部分に、
干からびた小さなミミズが死んでいたのだが、
見事に、ちょうどハートマークの形に死んでいて、
ファンシーな気持ちになればいいのか、悲しい気持ちになればいいのか、
分からなかった。
ということを、誰かに伝えたくて、
仕事している同僚たちの中に入っていくのだが、
こんな些細なこと、
しかもおじさんのつぶやく些細なことの受け入れ先を見つけられず、
悩んだ。
アート系の仲間の中に入っていくなら、迷わず伝えたと思う。
いや、イッセイミヤケのレセプションとかそういうハイクラスな場では無理だが、
もっと身近な年齢の近い友人たちになら。
さっきミミズ死んでたんやけど、と。
しかし職場の方々は一般市民というか立派な社会人たちなので、
あまり些細で脈絡や実益とは無縁なつぶやきは、正直ご迷惑となる恐れがある。
だれか、ハートのミミズのことを話せる可能性のある人、この職場にいなかったっけか、
わざわざ話に行くわけではないけど、可能性だけでも見いだせたら、
それで満足してこの件は終わりにしましょう。
そう考えて、N先生を思い出す。
N先生は、わしが2年目くらいの時に組んで担任を持った方なのだが、
自己主張とは無縁な、控えめな感じなのだけど感性が地味に鋭敏というか、
些細な事でも大変に面白がれる方だった。
おそらくこの話も、あの声にならない笑いで受け入れてくれる。
しかしN先生は、昨年度末に退職されたのだった。
最近は違う部署で働かれていたので、N先生がいないことで自分への影響はどんなものがあるのか、
あまり考えていなかったが、
ハートのミミズの受け入れ先がこの職場で完全になくなっていることに気づき、
わしは改めて、N先生の不在を感じたのだった。