高台にて
金ちゃんは躊躇なく大人になる。
きれいな高層マンションに住み、きれいな年上の奥さんをもらい、
車庫からトヨタ・ランドクルーザーに乗って現れる。
普通のランドクルーザーではないらしい。
発売何周年とかで復刻された、オリジナルの形だか何だか、
そんな感じだそうだ。
正確にはよく分からないが、
車への興味が薄いわしには、その程度の認識が限界である。

多摩美の彫刻学科の同級生だった。
誕生日まで一日違いの同い年だが、
彼は4年生くらいになると半分「ホンダ」で働き始めた。
そしてそのままホンダに就職し、
あの、固い粘土を削って車の原型を作る、「あの」仕事をしている。

彼は美大で浮いていた気がする。
もちろんわしも主にコミュ障を一因として浮いていたが、
金ちゃんの浮き方はまた別だ。
わしの受けた「印象」の話だが、
彼は、美大生的な「ファンタジー」をあまり持っておらず、
いや、持っていたのかもしれないけどそれをコントロールして何か産み出そうという気が起こらず、
かわりにとてもリアリスティックで、
「結論」の様なものを好み、
さっさとファンタジーを捨て去って、とびきりリアルな自動車の世界に進んでいった。
という、あくまでも印象だ、正確には分からん。
ホンダの社員だが、乗っているのはそのレアなトヨタ車なのであった。
昔から憧れていた車なんだって。

普通の車より位置が高いランドクルーザーの助手席にわしは座り、
金ちゃんの運転で「首都高」という道を行く。
わしには絶対運転できないような道だが、
金ちゃんは「躊躇なく」「乗れるようになった」のであろう。
途中、東京駅の地下の駐車場で、
これまた彫刻科の同級生だった女の子3人を拾う。
女の子だって…
女の子ではないか。
皆30代半ばだ。
でも「女の子」以外どう呼べば良いというのだ?
それに美大生は女の子感を保持したまま大人になる。
車内では、「最近物忘れが激しい」「体のどこそこが痛い」という、
何だかじんわり衝撃的な話題も聞かれたが。

多摩美の彫刻科で出会った同級生たちは、本当に皆、
一筋縄では行かない。
まさに「くせ者」たちであった。
くせ者とは、要するに、
「ああ、この人はこういうタイプの人ね」
と、自分なりに納得することが、
一向に、一向にできない人たちということである。
本当に、本当にみんな何考えてるか、わしには理解できんかった。
そして変なところへの専門性が異常に高かったり、知識の幅や深さが尋常じゃなかったり、人生経験が豊富だったり、
とにかくわしは付いていけんかった。
付いていけんかったからこそ、わしは、
「一番すごいもの作ったやつが一番すごいはずだろ?ここでは!!
くそう、無視すんな!こっち向け!!」
とばかりに、
自分の制作に打ち込み、
6メートルの寺院をこさえるに至った。
関口の存在をスルーされたくなかったのである。
久々に同級生に会ってそれを思い出した。
金ちゃんも女の子たちも、
相変わらず、わしのうかがい知れない我が道を力強く生き抜いていたので。

ランドクルーザーは海を潜ってから水面上に出て渡り、
千葉県は房総に入り込む。
彫刻学科の恩師、
現在は退官された、石井厚生先生のお宅を訪ねに行くのだ。
喜寿を前にした石井先生は、
南房総の先端の高台、崖の上の、
(ポニョでも訪ねてきそうな)アトリエ兼住居で、
海と対峙して一人で住み、彫刻作品の制作に取り組んでいるのだった。

先生は、尋ねた5人の元教え子をハグして迎えてくださり、
高そうなお酒を振舞ってくださった。
ハンドルキーパーの金ちゃんは、
何だかとても美味しい、名前の分からない料理を、
ハイクラスな調理器具で満たされている石井先生宅のキッチンで、たくさん作った。
金ちゃんの持ち込んだクーラーボックスも、負けじとゴツくて高そうだった。
「この家は、オレの理想の住まいだ」と金ちゃんは言っていた。
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ものすごくオシャレな住居のテラスで、太平洋を見下ろし、
オシャレでおいしい料理を囲み、
夕日が落ちるのを眺め、
まるで映画の様だった。

夜になると石井先生は、わしらをアトリエに招き入れ、先生の作品の一部分を譲ってくださった。
レンガの球体。
先生の代名詞的な造形である。
わしは、「持ち帰ってもこれを置いて似合うオシャレなスペースがわしの生活圏にない」と思いながらも、
とても嬉しかった。

夜のランドクルーザーで、レインボーブリッヂを渡り、
女の子たちを東京駅で降ろし、
わしは金ちゃんに家まで送ってもらった。
明日は仕事だ、夢から覚める思い。
石井先生は、明日はあのお宅で一人で過ごす。
住居もインテリアもすべてハイクラスだったが、
誰にも会わずに制作に打ち込むというのは、それはそれで壮絶だなと思った。

レンガの球体は、
ややごちゃごちゃしてはいるものの比較的無事な、我が家の靴箱の上に置いた。
どのように年を取っていくか!
とにかくそれが、わしらに突き付けられている命題なのであった。
世界よ、無視すんな!わしはここにいるぞ!!
と、言い続けられるかどうか。
翌日以降、仕事に出かける前に、たまにわしは玄関で球体に手を置く…
それでハイクラスな調理器具を得られるわけではないが、何かしらのフィーリングを得る。
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by syun__kan | 2017-06-18 21:42 | 日記 | Comments(0)
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現代芸術家、関口光太郎の日記。
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