風呂上がりに、腰にタオルを巻いた状態で、
台所に立って洗い物していた。
洗い物も終盤に差し掛かったところで、ふと、
鼻がかゆくなった。
しかしながら、わしの手は濡れ、
泡にまみれているので、
すぐには掻くことはできない。
水道で手の泡を洗い流して、タオルで拭けば、
鼻を掻いてかゆみに対処することもできるが、
できれば今やっている仕事を、このまま最後まで全うしたいと考えた。
それに泡を、
大して活躍させないままに洗い流してしまうのも、
何かもったいない。
現在の泡を、皿やコップを洗うことによって順当に消化させたい。
泡にも五分の魂、というようなアニミズム、というよりはたんなるケチ的な思考だ。
そうこうしているうちに、鼻のかゆみは、
いっそう強くなっていく。
もしかしたら、一時的なもので、掻かなくてもやり過ごせるのではと期待していたが、
見立ては外れたのだ。
かゆい、かゆいのである。
しかしわしは耐える。
前述のような、始めたことを最後までやっちゃいたいというこだわりと、
「MOTTAINAI」の精神によって。
だがしかし強烈にかゆい、
壮絶に!!
すると、ぞわぞわぞわっ!!と、
わき腹から寒気のようなものが上がって来て、
上半身一帯に鳥肌が立った。
わしの体が、ささやかに限界突破したのだろう。
あっという間の出来事だった。
かゆくなり始めから、限界突破まで。
わしは否応なしに、強制的に、手の泡を洗い流し、
誰かと争うようにタオルで手を拭き、
即座に鼻に手をあてがい、掻いた、
ボリボリボリボリと。
ボリボリボリボリ。
わしの両目から、涙がダーッと溢れ出た。