日曜の午前、もうすぐ4歳の娘と、
いつものように、録画したプリキュアを観る。
今日はグレイブという悪役が、散々悪いことして、
それをプリキュアが退治した。
続けて、わしは録画した「ワールド・プロレスリング」を観ようとする。
娘は、「なにこれ、やだ」と言う。
わしは、「これはおじさんのプリキュアだよ」と、
彼女の為に分かりやすく咀嚼した説明をする。
別にわしは、一緒にプロレスを観てほしい訳ではない。
「やだ」からと言って、テレビを消されたくないだけだ。
わしは物心付いた頃から、プロレスが好きだった。
なぜそんなに好きだったのか?
初期の記憶にさかのぼると、
あれは小1くらいだったか。
テレビで、「長州力vsビッグバン・ベイダー」をやっていた。
ベイダーは外国人で、クマの様に体が大きく、
黒地に赤いギザギザ模様の衣装で、
いかにも悪役。
対して長州は、
正統派の黒いパンツに白いリングシューズ、
長い髪を振り乱す。
観衆も長州に声援を送り、実況席も長州寄り。
幼いわしは、
「長州が正義で、ベイダーが悪者なのだ」
と解釈して、長州を応援していた。
戦隊モノとかしか見たことないから、
テレビにおけるフォーマットは、だいたい「正義対悪」で、
正義を応援しとけば間違いないと。
そのうち、実況席の解説により、
ベイダーが、目を手術したばかりだということが分かる。
すると・・・
長州が、思いっきりベイダーの目にパンチして、
形勢逆転したのである。
その後も公然とベイダーの目を攻撃する長州。
沸く観衆。
相手の、手術したばっかりの箇所を攻めていいのか!?
卑怯では!?
という思いが、7歳のわしの頭を掠める、
しかしその、善悪を超越した光景に、何というか、背徳的な興奮を覚え、
以来、プロレスに憑りつかれてしまった気がする。
それは大人の味だったのである。
まあ、世の中と言うのは、
正義と悪の単純な二極対立なんかではない訳で、
長州の姿に、世の中のリアルを垣間見た、ということなのかもしれない。
娘には、そんなややこしい味は、
まだ全然、理解させたいなどと思わない。
まだ年少さんだし、
グレイブは絶対的な悪者で、プリキュアは絶対的な正義で構わない。
午後には、児童館に遊びに行った。
そこで手に取った絵本を、何気なく娘に読み聞かせる。
名作としてタイトルだけは知っていたが、読んだことの無かった、
超大御所・やなせたかしの、「やさしいライオン」。
ひとりぼっちのライオンの赤ちゃんを、
犬が母代わりに育てる。
ライオンは大きく育ち、都会の動物園に引き取られ、
サーカスの人気者に。
しかし母代わりの犬のことは忘れられず、
ある日、年老いた母犬の鳴き声を遠くに聞き、
檻を破って飛び出し、会いに行く。
街を駆けていくライオンは、人にとって危険だということで、
兵士が鉄砲で撃ちに行く・・・
今朝プリキュアを観たばかりの娘は、
あまりの展開に呆然としている。
大御所は本当のことを、一切ごまかしていなかった。