今年印象的だった作品、2017
毎年末に、その年に鑑賞して、
印象に残った作品を5つ挙げる日記を書く。
今年もやりまっせ。


1、「キラキラ☆プリキュアアラモード」/東映・テレビ朝日
今年印象的だった作品、2017_f0177496_00223746.jpg
プリキュアに関する日記は、すでに何度も書いた。
11月22日には正義と悪について書いた。

我が子が男児だったら、わしは今年、仮面ライダーやキュウレンジャーを観たのだろう。
いずれにせよ、どれも正義が悪を倒す話である。
日本人は、幼稚園くらいの年齢になると、
だいたい皆、この「正義が悪を倒す」メディアミックス作品の洗礼を受けるということだ。
どこの国でもそうなのかな?


2.「古事記 少年少女古典文学館」/橋本治
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アンデルセン公園こども美術館という施設で展示した時は、
案を練るためにアンデルセン童話を読み込んだ。
島根県の浜田市こども美術館で展示することになった今年は、
古事記を初めて読んだのである。
職場の図書室にあった、何十年も開かれていなそうな、青少年向けの現代語訳があったので、
それを読んだ。
島根県といえば出雲大社&石見神楽であるからして、
そこで語られる神話を知るには、古事記を読むのがよかろう、
という思考である。

いやー、面白かったなあ。
うんちが神様になったりとか、宇宙から誰かがやってきたりだとか、
皮を剥いだ馬を集団に投げ込んで誰かがびっくりして死ぬとか、
ギリシャ神話同様、
神様たちのやることは善悪を超越していてカオスである。
事実だというには無理があるけど、
誰かの作り話だとしても、
日本の成り立ちがそのように設定されているというのは、
目から鱗だった。
天照大御神がさ、岩戸に閉じこもっちゃって、
それをこじ開けるために神様が裸で踊って盛り上がったりとか。


3.「桂枝雀落語大全 第七集」/桂枝雀
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昨年から落語をほんの少しかじっているが、
今のところダントツで一番好きなのは、桂枝雀さんである。

このCDは2公演入ってて、どちらも昭和56年、まず一席目の「くしゃみ講釈」は、
掛け値なしの大爆笑奇跡のスーパーイリュージョン落語。

しかしながら、さらに印象的だったのが、
次の噺「鴻池の犬」の冒頭、まくら。
「昭和十四年八月十三日、神戸市灘区中郷町二丁目三番地に、
私が生まれたわけでございます」
の一言から、枝雀が自分の生い立ちを語る。

父親が、幼い自分を抱えて「しーこいこい」と、
庭に向かって放尿させてくれているときの、
右上の方に赤い花があった記憶と、
背中からは父親の体温が伝わってくるという情景。
このエピソードに、オチは無かったのである。
オチもなくただ単にそれを語ったということが、
まずインパクトがあった。

話は、6歳頃に経験した、
神戸大空襲へ。
空襲警報と警戒警報の音の違いを説明して笑いを誘い、
火災から逃げる際、
姉が幼い枝雀を庇って道の熱い側を走ってくれたこと。
しかし二人三脚の様に足が揃っているわけではないので、
姉の足の間からけっこう熱いのが来るという…。

コミカルに、笑いを入れて話しているが、
エピソード自体は生死の掛かった壮絶なもの。
観客は笑いながら聞かされているが、
一抹の「これを笑っていいのかな?」という雰囲気も感じる気がする。

世の中で散見される、
戦争について一般市民の立場から語られた作品というのは、
大体いつも、悲惨で、悲劇的で、涙を誘うものになっている。
一般市民からしたら、戦争は悲劇でしかないので、それは当たり前なのだが、
鑑賞者の中の一定数は、その感じに「うっ…」となって、
拒絶反応を起こしてしまうことはないだろうか。
何かのイデオロギーに染まったものには、完全に身を委ねることをためらうというか。
主張が明確過ぎるのだな。

テレビ番組と映画の違いについて、
「こう感じてほしい」というのが決まっているのがテレビで、
「どのように感じても構わない」というのが映画であるというようなことを、
ある映画監督が言っていた。
確かにそうだ。
デザイン&イラストレーションと、アートの違いものそこかもしれない。
アートも、「どう感じても構わない。それはお客さんに任せる」というものだと思う。
そういう意味では、
このまくらはアートであった。

枝雀は、戦争の話をしてそれを「悲惨」と感じてほしいなんて思っていない。
笑いを交えて逆に悲惨さを際立てようとか、そういうのもない。
主張とかそういうものはおそらく何もなく、
ただ、自らの生業である落語の作法に従って語っているだけなのだ。

しかしながら、悲惨さを前面に押し出さないで語られた方が、
鑑賞する側は、拒めないというか、
「すっ」と自分の中に入ってくる気がした。
味付けが濃すぎない方が、消化しやすいのだ。
作品の奥行も出る。
それは向田邦子の、空襲のエピソードのエッセイを読んだ時にも感じた。

枝雀は、座布団から飛び出さんばかりの破天荒な落語で大阪の爆笑王となり、
その一方で、鬱病を抱えながら、
落語を求道し続け、思い詰め、最後は自死した方だ。
相反する要素を様々に抱え込んだその世界は、
「正義か悪か」のように単純ではなく、あまりに深淵なり。


4.横尾忠則の版画
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桂枝雀ほどでは全然ないけど、
実を言えばわしも、「死」について、
わりと頻繁に考える。

いや、死後の世界とか、生死感とか哲学的なことじゃなくて、
もっと単純に…
「いつか死んじゃうんだな、嫌だな」
と、ひたすら思うだけだ。

わしの人生のイメージは、ベルトコンベアー。
ベルトに乗ってカタカタカタ~っと進んで行って、終わりが来たらストンと落ちる。
あとどれくらいで終点が来るだろう…と、
常にぼんやりと怯えているのだ。

5月に町田で横尾忠則版画展を見て、
ダメージを負った話は、7月25日に書いた。
現在81歳のアーティストが残して来た強烈な作品群は、
わしに、ぼんやりとではなく、改めてちゃんとベルトコンベアーを意識させた。


5、「ブラタモリ」/NHK
今年印象的だった作品、2017_f0177496_00243363.jpg
奥さんはテレビが嫌いである。
「面白くない物を、無理やり面白がっている感じが嫌」
なのだそうだ。
確かにそれは、分かる気がする。
料理の上で、半熟の卵の黄身がトローッと溶け出し、
画面の隅の、四角い小さな画面に映った出演者がそれを見て、眉間にしわを寄せて、
「うわ~~」と言って、食べたがる、
そういう感じは、今さらもう見なくてもいいかな、という気がする。
だからわしらは、長らくテレビの無い生活を送ってきた。

しかし3月に引っ越しをして、4月から娘が幼稚園に行くにあたって、
我が家もついにテレビを購入した。
ブラウン管時代のことしか知らないから、つなぎ方から何から最初はさっぱり分からんかった。

それで、結局というかやはりというか、
我が家のテレビは、日々娘のために、子ども番組を映し続けている。

ただ、一つだけ、大人向けの番組の中でも、奥さんのお眼鏡に叶うものがあった。
それが「ブラタモリ」だ。

タモリさんと、NHKの女性アナウンサーが、
全国各地に行って、いろいろなものを見て回るわけだが、
タモリさんがいつも、本音しか言わないのである!
何しろ、その地の名産物を食べても、
「おいしい」とさえ言わないのである。
「うん」とうなづくだけ。
ものづくりや、生き物の話題にも、食いつかない。
「へぇ~」「ほー」と、
あっさりと受け流す。
しかし、タモリさんの好きな、
地形や地質学的な話題になると、目を輝かせて食いつく!
サングラスの上からでも分かるその輝きは、
演技の感じが全くなく、ものすごく自然である。

その生き物が、その生き物にとっての一番自然な事をしている姿は、
見ている人をも癒す。
これはわしの持論だ。
動物園で、アシカが自由に泳ぎ回っている所なんか、
わしはどれだけ見ていても飽きない。
ボールを鼻に乗せたりする芸なんかより、ずっと面白い。
泳いでいる方が、自然だからだ。
無理やりな芸は、見ていて何だか疲れる。
自然なものが見たいのだ。
歳のせいだろうか。
タモリさんの自然な興味、自然なリアクションは、本当に癒された。

そういえば、黒部ダムに行った回で、
一般客は立ち入れない、ダムから大量の水が放水されている噴出口付近に立ち入り、
水の迫力に圧倒され、
「すごいね~これは。良い記念になる」
と言っていたシーンが、印象に残っている。
72歳のタモリさんにとっての、「記念」というのは、
どんな意味を持つのだろう?
なんて思ったりした。


というようなことで、以上5作品である。
ちなみにわしは、わりと小説は好きで、常に何かしら読んではいるのだが、
去年も今年も、5本の指に入るほどのインパクトのある作品には出会えず、
選ばなかった。
(この一文は、選ばなかったけど、ちゃんと読んでますよ、というアピール)
又吉さんの「火花」や、長嶋有、夏目漱石の「坊ちゃん」は、けっこう面白かった。
来年はもっとすごい小説を読めますように!

by syun__kan | 2017-12-06 00:34 | 日記 | Comments(0)
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