島根滞在制作あとがき
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このようにして、
わしは2週間の滞在制作においてヤマタノオロチを完成させたわけだが、
昨年、同様に滞在制作して、「大人魚姫の城」を完成させた時ほどの、
涙ぐむほどの感動と自己陶酔はない。
数日の準備期間と、丸々2週間の時間、
あとたっぷりの新聞紙と200個のガムテープがあれば、
わしが大型の作品を一個作れるということは、
昨年の経験から、実証済だからだ。
一度経験したことは、どんどん「普通のこと」になっていく。

でも、思い返せば、
島根に出発する前は、
仕事と家庭という、通常業務の忙しさから頭が回らず、
プランがまとまらないことへのプレッシャー、
ほんとに2週間で仕上げられるのか?そんなことできるのか?
という強烈な不安に苛まれ、
泣き出しそうになってたのは、どこの誰だっけ?
みたいな記憶もある。

条件さえそろえば、実現できる。
しかし、集中できる条件がそろっていない時は、
「自分は条件さえそろえば、実現できる」ということさえ、
信じられなくなるというか、忘れてしまうものなんだな、と思った。
そのようにして、人は自分の可能性を狭め、
日常に埋没していくのかも…
だからやはり、今回の様に集中できる機会を与えていただくということは、
非常にありがたいことだと思う。
大げさに言えば、アーティストとしての命の恩人である。

今後もだ、関口に、
2週間強の時間と、たっぷりの新聞紙と200個のガムテープを与えれば、
関口は大型作品をこしらえる。
全国の学芸員の方々、ご一考を。
ただし、来年の夏休みは、教員免許の更新講習があるかもなので、
今年と同じような時間の取り方はできないかもしれない。
また、関口は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、
何か大きい人物像を作りたいという野望を持っている。
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なので、それの制作を、やらせてくれる、滞在制作、
なーーんていうのが理想中の理想だけど、
そんなにうまくなんて行かないってことは34歳、そろそろわかった。

今回の滞在制作では、
初日の前夜に、プランを練るところから日記を書いていたので、
「結局どうなった」ということについても、
造形的な視点から日記を書いておこう。

前夜の日記で、
先人たちが表現した様々なヤマタノオロチの形を紹介したが、
結局わしは、
犬みたいな四つ足の体があるスタイルを採用したということになる。
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しかしながら、体の中に人が入って通れるようにするため、
ポーズは腹這いとした。
でも今考えると、四つ足で立っているままの体勢でも、
階段?梯子?滑り台等を付ければ、体の中を通れるようにできるな…
そこまでの大工仕事はさすがに自信が無いが…
いつか高床式の通路も、挑戦してみても良い。

浜田市に来てから感じた一つの課題として、
島根県浜田市における「神楽」の存在の大きさがあった。
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すなわち市民の皆様は、神楽に登場する、
ド迫力の立体造形のオロチに普段から接しているわけで、
同じ土俵でオロチを作っても、負けてしまう。
神楽のオロチと違う持ち味の、オロチを作らなくてはいけないということ。
その解決策として、
わしはオロチをピシッとさせた。
神楽のオロチは、グルグルとうねり、動き回るわけで、
すなわちアメーバのような不定形なのである。
わしは個人的に、彫刻作品の魅力は「屹立」「起立」だと思っている。
重力に逆らって立つということ。
物というのは普通、低く平らに置くのが一番安定する。
立てて置くことで安定する物もあるが、
風が吹いたり、地面が揺れたりすれば、
基本的にみな、倒れて低くなり、
これ以上低くなれないところで止まる。
万物は、常に重力によって、下方向に引っ張られる宿命にあるのだ。
そこを、敢えて物を立たせる!屹立させる!
この、自然の法則に対する反抗こそが、
彫刻の肝なのだという気がする。
だからわしは彫刻には空間の中で「立っていて」欲しいし、
なるべく高く立ったものに憧れる。
神楽の舞台で演じられるオロチは、本当に凄まじい迫力なのだが(実際に島根県に行って観てみると良い)、
しかし人が入って演じる以上、人の背以上には高くなれないのだ。
だからわしは、オロチの首を上に伸ばして屹立させた。
そして、真っすぐに伸ばすことで、グルグルうねうねの、不定形感をなくした。

もう一つ、神楽のオロチは、禍々しい怪物として描かれる。
愛嬌はあるが、表情や動きのベースは「禍々しさ」だと思う。
だからわしのオロチは、もう少し明るい、飄々とした、健康的な感じを狙った。
うまく表現できたかはわからないが…。
ウロコも付けなかった。
付けるのが非常に手間(大人魚姫で経験済)ということもあるが、
付けてしまうと神楽のオロチと同じ土俵に乗ってしまう気がして、
しれっと省いた。

まだ展示室に置いたわけではなく、
狭い搬入口で仮組みしたので体正面から全体像を見ることがまだできていないけども、
今回の作品は、わりと気に入っている。
「大人魚姫の城」が、片面から見ることを想定して裏面を造形していない、
いわばレリーフ的な作品だったのに対し、
今回のオロチは、360度から見れる「丸物」に近い。
そういうのは久々だったので、楽しかった。
また、浜田市世界こども美術館が、常に子どもたちが出入りし、造形を体験し、作品が飾られ、
図工的な息吹が循環している施設だったので、
自分が作っていて内向的にならなかったのも良かった。
(イメージアップの為にちょこっと子どもが楽しむ何かが用意されているオシャレ空間とかでもなく、
本気でがっつり図工の美術館だった)
大人ばかりが出入りし、うんちくばかりを述べるような場所だったら、
わしの思考も沈殿し、
「オロチの形を聖堂になぞらえて禍々しさの象徴としてキリスト教をうんたら…」
みたいな、
しょうもないコンセプトを付け加えていたかもしれない。
でも今回のオロチは、そんなん全然ない。
何か形を、物を作る楽しさだけで押し切れたと思う。
美術館のおかげだ。

そうそう、美術館の職員様は本当に優しかった。
昨年の広島で担当してくださった学芸員さんは、緊張感と圧があり、
制作中のわしの作品の進度を、まさに睨めつけるようにチェックし、
その緊張感に学芸員さんの本気とプロ意識を感じてむしろ感動し、
それはそれで大好きで、感謝に堪えない思いだったが、
浜田の方々は本当に穏やかに見守ってくださった。
朝ホテルに迎えに来てくださり、帰りはわしの作業終了に合わせていただき、
数々の計らい、
ご家族の方々も含め、本当にありがとうございました。

そして送り出してくれたわしの奥さんと娘もありがとう。
奥さんには、浜田の物産店でわりと高いお酒と、タコの燻製を買った。
娘には、パンダのペンケースと、鹿のポーチを買ったが、
浜田で買う時間がなく、高速バスに乗ってから新幹線に乗り換える際、
広島駅で見つけたものであることは、
申し訳ないと思っている。

by syun__kan | 2017-08-16 21:13 | 日記 | Comments(0)
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