10周年記念、10人のおっさん
この5月末で、このブログも10周年となる。
何の収益も上げていない、誰のためにもなっていないブログなので、
10周年といっても、祝うことなど何もないのだが、
個人的には、ある程度感慨深いのである。
記念に、10年にちなんで、好きな「おっさん」を10人挙げる日記を書こう。
わしは小さなころから、おっさんに興味を持ち、おっさんに学んできたのである。


1、長州力(プロレスラー)
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わしは小さいころ、土曜4時の「ワールドプロレスリング」を、毎週心待ちにしていた。
一番のお目当ては、長州力だ。
当時、長州はすでに40代で、
若くはつらつとした武藤や橋本の、追撃を受け止める立場だったが、
わしはベテランの長州が好きだった。
だって、明らかに、若い選手より、ダシが効いていたからである。
全ての面で味わい深かったのである。
それは5歳でも分かった。
長州は、「おっさん」の魅力を教えてくれたのである。


2、伊福部昭(作曲家)
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わしは、いわゆる「90年代平成ゴジラシリーズ」の、直撃世代である。
年長さんの時に「ゴジラvsビオランテ」があって以降、
ほぼ毎年末に新作映画があり、
6年生の時の「ゴジラvsデストロイア」まで続いた。
小学生のわしにとって、映画というのは既に完成された一つの世界であり、
「監督」「脚本家」という、物語の作り手は、
存在を意識したことがなかった。
かわりに頭に入ってきた、作り手側の個人名は、
「スーツアクター」の薩摩剣八郎と、「作曲家」の伊福部昭だった。
特に、あまりに怪しく内臓をもぞもぞさせる劇伴音楽は、常に口ずさむくらい好きで、
大人になったら、音楽だけでも聴くようになった。


3、前川淳(折り紙作家)
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小学生の頃に、折り紙にはまった。
算数は超苦手だったが、図形問題だけは得意で、
つまり空間認知が優位だったのだろう、
折り紙の折り図を理解し、その通りに折るのが非常に得意で、
自分に折れない作品など無いと思っていた。
それでもってある日、前橋市立図書館で、新しく目についた折り紙の本を借りてきて、
折ってみたら、
その本はめちゃくちゃ難しかったのである。
紙はよれよれになり、わしのプライドもくちゃくちゃになった。
わしは何度もリトライし、折れるようになり、
次第に「中割り折り」を多用するリズミカルな工程と、
魔術的な造形美の虜になった。
その本が「ビバ!折り紙」であり、著者は「前川淳」だった。
当時はインターネットなど無いから、前川淳氏の顔などは分からず、
しかしその名前は、わしの中で神格化され、
「まえかわじゅんまえかわじゅん」とつぶやきながら登下校していた。


4、成田亨(デザイナー、彫刻家)
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小学校のころ、夏休みになると「ウルトラマン」の再放送が、まだあった。
これは幸運だった。
高度成長期のスーパーエキセントリック映像芸術を、多感な時期に享受できたのだから。
大学生ころになると、
わしが「大好き」と思っていた初期のウルトラ怪獣たちは、
すべて「成田亨」という武蔵美出身の彫刻家のデザインだと知る。
「レッドキング」などは、「彫刻家」という職業?肩書?の、存在価値証明だと思う。
最近のクリエイターがデザインする怪獣は、
みんな鳥山明っぽいというか、
唐突なツノや、人のような筋肉が付いてたりする。
なんというか、発想が二次元的なのだ。
レッドキングはそんなんいっさい無く、
全体の形の流れや構造を踏まえた、表面の形で覆われ、
頭の先まで緊張感と躍動感が漲っている。
フォルムとモールドが完全に理に適っているのだ。


5、嘉門達夫(シンガーソングライター)
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深夜ラジオをきかっけにして、
中学生のころ、「替え歌メドレー」「鼻から牛乳」等のコミックソングで有名な、嘉門達夫にはまった。
面白さもさることながら、
その分析的な思考が興味深かった。
自分の歌を、「日常指摘」「反実仮想」「言葉遊び」に分類し、
感じたことを、ある意味システマチックに、工場的に、
数学の公式に当てはめるようにして作品化していく。
アイデアを、初期衝動のまま叫ぶといったような、
そういう表現方法とは、実は正反対なのだ。
作品化のためには、ちゃんと人まで届くように、
整理して、オチを付けて、味付けして、お皿に盛りつけて、提供する。
そういった作法を、教え込まれた気がする。
文を書く上でも、一番影響を受けたのは嘉門さんだと思う。


6、細野晴臣(ミュージシャン)
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10代後半は、YMOばっかり聴いていた。
とっくに解散していて、作品はすべて追体験だったが、
特に初期の曲は、躍動感があって攻撃的で愉快で、まるで恐竜みたいに感じた。
坂本龍一、高橋幸宏も大好きだが、
ライブでずっと伏し目がちでほとんど身動きせず、
汗一つかかず、
声も張らない細野晴臣は、輪をかけてかっこ良過ぎた。
大学2年でアメリカに旅行した際、
ÝⅯОが初めて海外でライブした、グリークシアターという会場を、
その日は何も催されていないのに、
ただ眺めるために尋ね、
外から壁を眺めて写真を撮った。
4年生のころだったかには、細野さんが講義に来られて、
わしはソロアルバム「はらいそ」にサインをしてもらおうと思って出待ちしたが、会えなかった。
基本的にすれ違いだった。
わしはあのような、汗一つかかない感じの余裕やかっこよさは、一生身に付けられないのだろう。
せめて自分の犬に、細野さんから取って「ハル」と名付けた。


7、武藤敬司(プロレスラー)
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5歳のわしがベテラン長州を応援していた時、
武藤敬司は、若々しく、大空を駆けまわるようなレスリングをしていた。
わしが成人近くになると、武藤も歳を取り、おっさんになって、
良いダシが出てきた。
いや、ダシどころの話ではない。
武藤の時間経過はもっと顕在的だった。
巨体でリングを飛び回っていた影響で、
変形性膝関節症等で、膝が真っすぐに伸びなくなり、
日常生活に支障をきたすほどになってしまう。
しかし武藤は、飛べなくなっても、
膝を攻められて悲鳴を上げることで観客を引き付け、
膝に負担のない新しい必殺技でやり返し、何度も熱狂に導いた。
プロレスから教わることはたくさんあるのだが、一番は、
「マイナス要素を悲観しないこと。
工夫次第で、それはプラスにもなり得る」
ということだ。


8、マイケル・ジャクソン(歌手)
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マイケルは、わしの体を解放した。
わしはスポーツとか、まるでダメなので、
自分の体を有効活用したことがなかった。
歩いたり日常生活を送ったりすることだけに使っていた。
しかし、表現の衝動はやって来る。体にもやって来る。
でも何もできない。
わしの体は、表現のためのスキルを何も持っていない。
そんな大学1年の頃、レンタルビデオ店でマイケルのVHSを借りてきて、
「BAD」のショートフィルムを観て、
月並みだが、衝撃を受けた。
「君が欲しかったのは、これだろ?」
と言われた気がした。
歌もイマジネーションも(ツッコミどころも)すべて超人のマイケルだが、
一番わしをぶっとばしたのは、やはりダンスだった。
それからというもの、わしはいつでもどこでも踊った。
大学の構内でも、道を歩いている時でも。
ムーンウォーク。
美術館でもロボットダンス。
交差点でターン。
わしの体はようやく、意思をもって動き始めたのである。
それが一般的な「有効活用」だったのかは分からない。


9、長新太(絵本作家)
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長さんは「ナンセンスの神様」と呼ばれる。
わしもそう思う。
神様とは何か?それは、
「いつでもそのお方に思いを馳せれば、心が穏やかになる」存在のことだと思う。
わしは大学で絵本創作研究会に入ったので、
図書館でよく絵本を見ていた。
長谷川集平や田島征三も大好きだが、
彼らは、泥臭く地を這いまわる、人間を含めた生き物たちの息遣いを代弁していた。
長さんの絵本は違う。
全く何のメッセージも無い。
「笑わせよう」とか、そういった力みさえ感じない。
「意図」みたいなものを感じない。
ただ、極彩色の変な出来事があるだけ。
それが人にどういった感慨を与えるかというと…
そう、心が穏やかになるのだ。
「ゴムあたまポンたろう」は、
司馬遼太郎の「坂の上の雲」に次ぐ、わしの座右の書だ。


10、桂枝雀(落語家)
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「桂小米」を名乗っていた若いころは、わりと静かな芸風だったそうだが、
「二代目桂枝雀」を襲名して以降、
まるで赤塚不二夫のギャグマンガのような、
座布団をはみ出しそうな破天荒な芸風で、関西の爆笑王となる。
一方で、小米時代から鬱と闘い、
枝雀になってからもそれは続き、
59歳で自殺未遂し、そのまま亡くなる。
「笑い」を極限まで研究する方だったそうで、
それで思い詰めて鬱になってしまったのか、
あるいは、鬱に対して「攻撃」するために、
振り切った芸で大爆笑を生んでいたのか?
「卵が先かニワトリが先か」みたいな話かもしれないが、
一つ言えるのは、
わしが元気な時もそうでない時も、
いつ聞いても枝雀の落語は、寄り添ってくれるのである。
そして枝雀さんは、わしが10年ぶりにくらいに「新たに好きになったおっさん」だった。
というかわしも、枝雀を心の友にできるくらいの「おっさん」になったのだ。

by syun__kan | 2018-05-19 21:05 | 日記 | Comments(0)
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