わしは小さいころ、土曜4時の「ワールドプロレスリング」を、毎週心待ちにしていた。 一番のお目当ては、長州力だ。 当時、長州はすでに40代で、 若くはつらつとした武藤や橋本の、追撃を受け止める立場だったが、 わしはベテランの長州が好きだった。 だって、明らかに、若い選手より、ダシが効いていたからである。 全ての面で味わい深かったのである。 それは5歳でも分かった。 長州は、「おっさん」の魅力を教えてくれたのである。 2、伊福部昭(作曲家) わしは、いわゆる「90年代平成ゴジラシリーズ」の、直撃世代である。 年長さんの時に「ゴジラvsビオランテ」があって以降、 ほぼ毎年末に新作映画があり、 6年生の時の「ゴジラvsデストロイア」まで続いた。 小学生のわしにとって、映画というのは既に完成された一つの世界であり、 「監督」「脚本家」という、物語の作り手は、 存在を意識したことがなかった。 かわりに頭に入ってきた、作り手側の個人名は、 「スーツアクター」の薩摩剣八郎と、「作曲家」の伊福部昭だった。 特に、あまりに怪しく内臓をもぞもぞさせる劇伴音楽は、常に口ずさむくらい好きで、 大人になったら、音楽だけでも聴くようになった。 3、前川淳(折り紙作家) 小学生の頃に、折り紙にはまった。 算数は超苦手だったが、図形問題だけは得意で、 つまり空間認知が優位だったのだろう、 折り紙の折り図を理解し、その通りに折るのが非常に得意で、 自分に折れない作品など無いと思っていた。 それでもってある日、前橋市立図書館で、新しく目についた折り紙の本を借りてきて、 折ってみたら、 その本はめちゃくちゃ難しかったのである。 紙はよれよれになり、わしのプライドもくちゃくちゃになった。 わしは何度もリトライし、折れるようになり、 次第に「中割り折り」を多用するリズミカルな工程と、 魔術的な造形美の虜になった。 その本が「ビバ!折り紙」であり、著者は「前川淳」だった。 当時はインターネットなど無いから、前川淳氏の顔などは分からず、 しかしその名前は、わしの中で神格化され、 「まえかわじゅんまえかわじゅん」とつぶやきながら登下校していた。 4、成田亨(デザイナー、彫刻家) これは幸運だった。 高度成長期のスーパーエキセントリック映像芸術を、多感な時期に享受できたのだから。 大学生ころになると、 わしが「大好き」と思っていた初期のウルトラ怪獣たちは、 すべて「成田亨」という武蔵美出身の彫刻家のデザインだと知る。 「レッドキング」などは、「彫刻家」という職業?肩書?の、存在価値証明だと思う。 最近のクリエイターがデザインする怪獣は、 みんな鳥山明っぽいというか、 唐突なツノや、人のような筋肉が付いてたりする。 なんというか、発想が二次元的なのだ。 レッドキングはそんなんいっさい無く、 全体の形の流れや構造を踏まえた、表面の形で覆われ、 頭の先まで緊張感と躍動感が漲っている。 フォルムとモールドが完全に理に適っているのだ。 5、嘉門達夫(シンガーソングライター) 中学生のころ、「替え歌メドレー」「鼻から牛乳」等のコミックソングで有名な、嘉門達夫にはまった。 面白さもさることながら、 その分析的な思考が興味深かった。 自分の歌を、「日常指摘」「反実仮想」「言葉遊び」に分類し、 感じたことを、ある意味システマチックに、工場的に、 数学の公式に当てはめるようにして作品化していく。 アイデアを、初期衝動のまま叫ぶといったような、 そういう表現方法とは、実は正反対なのだ。 作品化のためには、ちゃんと人まで届くように、 整理して、オチを付けて、味付けして、お皿に盛りつけて、提供する。 そういった作法を、教え込まれた気がする。 文を書く上でも、一番影響を受けたのは嘉門さんだと思う。 6、細野晴臣(ミュージシャン) 10代後半は、YMOばっかり聴いていた。 とっくに解散していて、作品はすべて追体験だったが、 特に初期の曲は、躍動感があって攻撃的で愉快で、まるで恐竜みたいに感じた。 坂本龍一、高橋幸宏も大好きだが、 ライブでずっと伏し目がちでほとんど身動きせず、 汗一つかかず、 声も張らない細野晴臣は、輪をかけてかっこ良過ぎた。 大学2年でアメリカに旅行した際、 ÝⅯОが初めて海外でライブした、グリークシアターという会場を、 その日は何も催されていないのに、 ただ眺めるために尋ね、 外から壁を眺めて写真を撮った。 4年生のころだったかには、細野さんが講義に来られて、 わしはソロアルバム「はらいそ」にサインをしてもらおうと思って出待ちしたが、会えなかった。 基本的にすれ違いだった。 わしはあのような、汗一つかかない感じの余裕やかっこよさは、一生身に付けられないのだろう。 せめて自分の犬に、細野さんから取って「ハル」と名付けた。 7、武藤敬司(プロレスラー) 武藤敬司は、若々しく、大空を駆けまわるようなレスリングをしていた。 わしが成人近くになると、武藤も歳を取り、おっさんになって、 良いダシが出てきた。 いや、ダシどころの話ではない。 武藤の時間経過はもっと顕在的だった。 巨体でリングを飛び回っていた影響で、 変形性膝関節症等で、膝が真っすぐに伸びなくなり、 日常生活に支障をきたすほどになってしまう。 しかし武藤は、飛べなくなっても、 膝を攻められて悲鳴を上げることで観客を引き付け、 膝に負担のない新しい必殺技でやり返し、何度も熱狂に導いた。 プロレスから教わることはたくさんあるのだが、一番は、 「マイナス要素を悲観しないこと。 工夫次第で、それはプラスにもなり得る」 ということだ。 8、マイケル・ジャクソン(歌手) マイケルは、わしの体を解放した。 わしはスポーツとか、まるでダメなので、 自分の体を有効活用したことがなかった。 歩いたり日常生活を送ったりすることだけに使っていた。 しかし、表現の衝動はやって来る。体にもやって来る。 でも何もできない。 わしの体は、表現のためのスキルを何も持っていない。 そんな大学1年の頃、レンタルビデオ店でマイケルのVHSを借りてきて、 「BAD」のショートフィルムを観て、 月並みだが、衝撃を受けた。 「君が欲しかったのは、これだろ?」 と言われた気がした。 歌もイマジネーションも(ツッコミどころも)すべて超人のマイケルだが、 一番わしをぶっとばしたのは、やはりダンスだった。 それからというもの、わしはいつでもどこでも踊った。 大学の構内でも、道を歩いている時でも。 ムーンウォーク。 美術館でもロボットダンス。 交差点でターン。 わしの体はようやく、意思をもって動き始めたのである。 それが一般的な「有効活用」だったのかは分からない。 9、長新太(絵本作家) わしもそう思う。 神様とは何か?それは、 「いつでもそのお方に思いを馳せれば、心が穏やかになる」存在のことだと思う。 わしは大学で絵本創作研究会に入ったので、 図書館でよく絵本を見ていた。 長谷川集平や田島征三も大好きだが、 彼らは、泥臭く地を這いまわる、人間を含めた生き物たちの息遣いを代弁していた。 長さんの絵本は違う。 全く何のメッセージも無い。 「笑わせよう」とか、そういった力みさえ感じない。 「意図」みたいなものを感じない。 ただ、極彩色の変な出来事があるだけ。 それが人にどういった感慨を与えるかというと… そう、心が穏やかになるのだ。 「ゴムあたまポンたろう」は、 司馬遼太郎の「坂の上の雲」に次ぐ、わしの座右の書だ。 10、桂枝雀(落語家) 「桂小米」を名乗っていた若いころは、わりと静かな芸風だったそうだが、 「二代目桂枝雀」を襲名して以降、 まるで赤塚不二夫のギャグマンガのような、 座布団をはみ出しそうな破天荒な芸風で、関西の爆笑王となる。 一方で、小米時代から鬱と闘い、 枝雀になってからもそれは続き、 59歳で自殺未遂し、そのまま亡くなる。 「笑い」を極限まで研究する方だったそうで、 それで思い詰めて鬱になってしまったのか、 あるいは、鬱に対して「攻撃」するために、 振り切った芸で大爆笑を生んでいたのか? 「卵が先かニワトリが先か」みたいな話かもしれないが、 一つ言えるのは、 わしが元気な時もそうでない時も、 いつ聞いても枝雀の落語は、寄り添ってくれるのである。 そして枝雀さんは、わしが10年ぶりにくらいに「新たに好きになったおっさん」だった。 というかわしも、枝雀を心の友にできるくらいの「おっさん」になったのだ。
by syun__kan
| 2018-05-19 21:05
| 日記
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