今年印象に残った作品、2023
年末に、その年に鑑賞して印象に残った作品を5つ挙げる、恒例の日記ですよ。

1、「宇宙戦争」/笑い飯

今年は誰にも、友達に会わんかった。
というか友達自体、ほんのちょっとしかいないのだけどね。
今年わしは仕事ばかりしていて、
友達の方からわしにアプローチが来ることはないので、
なので会わなかった。

わしの「仕事」とは、教職と、アートである。
新聞紙×ガムテープアートは、「趣味」ではない。
いつも多大なるプレッシャーと戦い、結果を求められる状況でやっているから、そういうのは「仕事」である。
わしは「趣味」というものを、ほぼ持っていない。

奥さんは、趣味活動を充実させていた。
毎晩、9時を過ぎると自室に入り、同好の士とオンラインでゲームしていた。
教職の仕事から帰ってきて、一人リビングに残ったわしは、
アート関係の仕事のメールをしたり、作品の小さなパーツを作ったりしたあと、
放心しながらパソコンを見ていた。
仕事をしていない状態のわしを求める人など、いないのである。

友達と趣味の欠如は、おそらく定年後のわしの死活問題となることが予測されるが、
地球沸騰化を目の当たりにして成す術があまりない人類のように、成す術があまりない。
仕事ならたんまりあるので、それをするなり。

毎夜ネットサーフィンの末、大体、わしは最後にYouTubeを訪れ、「笑い飯」さんというお笑いコンビの漫才の動画を見た。
そして笑った。
特に「宇宙戦争」というネタは好きだった。
今年100回くらい見たんじゃないか。


2、「暇と退屈の倫理学」/國分功一郎
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いや、思い起こせば、横浜髙島屋での展示に参加していた時、
大和田詠美さんが会いに来てくれたではないか。
切り絵アーティストの鈴木学さんだって。
どちらも5分かそこらの会話だったが、非常に嬉しかった。
そんな風に、わしをかまってくれる人だっているのである。
この本だって、年始くらいに同僚の方が、「これを読んでみて」と、
貸してくださったのである。

とはいえ、「暇と退屈の倫理学」とは、正直、興味を惹くタイトルではなかった。
なにしろわしは、二十歳で覚醒し、新聞紙×ガムテープアート道を歩み始めてからは、
一度たりとも暇になったことがない、と、自認する男なのであるからして。
「暇」についての考察は、面白いのかしらと。
哲学の本のようだが、果たして読み切れるのかしらと。

ただ、今年はアートの仕事で遠方に行くことも多かったので、
移動中に本を読む時間が割とあり、
読み始めたら、これが面白かったんだな!
哲学の本など、初めて読んだけど、面白かった。
本の「結論」はよく分からんかったけど、
過程の文が、面白かった。
冷静なようでいて、実はとっても感情的なのが良かった。
文庫化に際しての加筆で、「安いハンバーガー」をけなし、かなりの行数を割いて「高いハンバーガー」を丁寧に持ち上げたところだけはマイナスワンだったが(わしは安いハンバーガーのファンである)、
それを差し引いても、良かった。
誰かに勧められた本って、大抵面白くないけど、
すっごく面白いこともあるんだな!と思った。


3、「ギョギョッとサカナ★スター」/NHK Eテレ
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いやいや、そんな風に、
「誰かに勧められた本って、大抵面白くない」とか、
書いてしまうから、わしには友達がいないのだ。
気を付けたまえ。

それに、わしもだいぶ年長者になってきた。今年40歳。
前は、何かの集団に加わったら大抵、その中の最年少だったものだが、
今では下手したら最年長だったりする。

年長者の意見に、異なる意見を年少者が述べるのは、無駄に多大なエネルギーを消費させてしまうものであるからして、
よほど気を付けていないと、いろいろなやりとりの公平性のバランスを崩してしまいかねないのだ。
年長者は存在自体がパワハラである。
注意深く生きていかねば。

どんな風に、今後年を取ってゆけばよいか…
その指針を、わしは家族でよく観ていた番組「ギョギョッとサカナ★スター」出演の、「さかなクン」さんに見出した。

50歳近い男性であるはずのさかなクンさんだが、
番組では、二十歳そこそこの女性アシスタントに、常に敬語で接し、
彼女の知識不足を責めることなど一切なく、
むしろ少しでも相手が勘を働かせたならば「ギョギョ!すごいですね!」と褒め、
番組で魚への愛を爆発させるが、それを人に押し付けることはなく、
自己顕示欲のためではなく、魚の名誉を守るために知識を伝えている印象で、権威的な印象を全く与えず、
学者であり客員教授でもある彼に対し、それに見合った敬称で呼ぼうとしても、
名前にすでに「クン」が付いていて、権威化を拒んでいるかのよう。

「どんなオッサンになって行けばよいか」という命題の答えを求め、わしは様々なオッサンを観察して生きてきたが、
令和5年の今、
「ああ、それはさかなクンさんや…」
という結論に至った。
さかなクンさんのようになりたい。

それか、番組にたまに登場する千葉のハイテンションな魚屋、森田釣竿さんのようになりたい。


4、「HOSONO HOUSE」/細野晴臣
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そしてやっぱり、細野晴臣さんのようになりたい。
かなり難しいけど。
少年野球の男の子が、「大谷選手みたいになりたいです」と言うのと同じニュアンスで。

高橋幸宏さん、坂本龍一さんが相次いで亡くなり、中学生の頃から大好きだった「YMO」がまさかの消滅。
そんなこともあって、今年はその周辺の音楽をよく聴いていて、
またGWに福生をうろついたことがきっかけで、細野さんの盟友・大滝詠一さんにはまったりもしていたが、
でも最後に、戻って来るのがこの、細野さんのファーストソロアルバムだった。
「HOSONO HOUSE」。
良い。
その前も、その後も、その周辺も、全部入ってる、という感じがする。
まさにハウス、家である。実家感がある。
どの曲も良いが、一曲挙げるとすれば「冬越え」か。
消えかかる、街の灯かり。紅茶と、人の情け。
シニカルなはずの細野さんが「人の絆」と言うのが染みる。
ちなみに2019年の新録版も非常に良い。

来年77歳という細野さん。
ラジオを聴くと、まだまだ瑞々しい感性、そして老人としての諦念、
褒められれば喜ぶ子どもっぽさと自意識、未だにのぞく、大滝さんや坂本さんへのライバル心。
そういうのが窺えて、心強い。


5、「もののけ姫」/監督:宮崎駿
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いやいやいや。
「HOSONO HOUSE」て、50年前の作品やん。
それに、今年出会ったわけでもなく、前から聴いてるやつやん。
もっと新鮮な、2023年の作品との出会いは無かったんかいな、例えば映画とかさあ。

と、いうことで、思い起こしてみると、
わしは今年、ちゃんと新作の映画を、映画館で4本観ていた。
「シン・仮面ライダー」と「マイ・エレメント」と「君たちはどう生きるか」と「ゴジラ-1.0」である。

ただ、どれも良かったんだけど、どうしても「前のアレ」(A.R.E)の方が好きだなと、なってしまうのが、オッサンのオッサンたるゆえんである。
前橋で高校生を対象にワークショップをした時にも話したのだが、
「何かを好きになる力」「恋する力」というのは、高校生くらいがピークで、年齢と共に衰える。
未来を作るのは若者であり、オッサンは基本的に過去の記憶と戯れる。

そしてオッサンは、世代間クロスオーバーを期待する。
小4の娘が学校の音楽の授業で、「もののけ姫」を合奏するとのことで、主題歌を家で口ずさんでいたのだが、
しかし映画は観たことないということだったので、
わしはゲオでブルーレイを借りてきて、長いので何回かに分けて、
家族で夕飯を共にする機会に観た。
忙しくわしが週末不在のことも多かったので、3週間かかった。

「もののけ姫」の公開は、わしが確か中1の時で、ちゃんと映画館で観た。
中1のわしは、アシタカに感情移入して観ていたであろう。
しかし今となっては、もうアシタカ視点にはならない。なれない。
40歳のわしの視点は山犬の神モロである。あるいは乙事主である。

森を見下ろす岩の上で、アシタカとモロが話すシーン。
アシタカは理想を語る。
それに対し、モロは現実を説く。「だまれ小僧!」

やっぱりどうしたって、未来はアシタカに作っていってもらわないといけない。

改めて観ると、「もののけ姫」は、戦ってばかりのハードでグロテスクな話なのだが、
シシ神の首に矢が刺さってからの展開は、
宮﨑さんのイマジネーションの爆発がさすがに天才としか言いようがない。
そしてちゃんと、作品の魅力は小4の娘の心にも届いていた。

アシタカとサンは生き残り、
モロ、乙事主、シシ神などはみんないなくなってしまうが、
モロの最期は、かっこよかった。
シシ神の「どろどろ」に浸かって体が死んでも、首だけでウニョウニョ動いてエボシを攻撃し、そして絶える。
わしはアシタカにはもうなれないが、首だけでウニョウニョ動いて飛びかかるような、カッコよさを目指せばよいのだ。

というようなことで、結局26年前の作品を挙げてしまったが、
わしは今後、
さかなクンさんのような物腰を身に付け、細野さんのような才覚を維持し、首だけでウニョウニョ飛びかかる感じでやっていこう。
という指針を得た。

以上、5作品であった。
何となく暗いような文になってしまった気もするが、
反動としてのダウナーであるかもしれず、
実際の造形活動が充実していたことの表れかもしれない。
それが芸術家の、ややこしいところである。

# by syun__kan | 2023-12-17 17:20 | Comments(0)
「めがみ辻モン」について
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今朝設置してきました。
熱いうちに、「めがみ辻モン」」について説明を書いてしまいます。

ちなみに「辻辻モンスターズ」のリーフレットに載せた文章は下記の通り。

『私が10代のころ、オリオン通りは映画館「オリオン座」があったり、中央通りから一本外れた雰囲気もあったりで、ちょっとしたデートスポットだったと思います。私自身に当事者経験があるかはノーコメントですが。ギリシャ神話で「オリオン」と恋仲だったのは、月の女神「アルテミス」です。彼女に、あのころの甘苦い気持ちを託します。』

というようなことで、
ここオリオン通りに作品を設置することとなり、
どんなのにしようかなと考えたとき、
やっぱり最初に浮かんだのは、この通りに存在した、今は無き映画館「オリオン座」。
たしかね、映画館の入り口はいるとロビーみたいにちょっと広くてその奥の階段をね、上ったんじゃなかったかなと思うんですね、
階段の上に劇場があって。
空間がかっこよかったですね。
小中高生の時に、何度か来て、映画を観ました。

ちなみにここは、その昔は芝居などを上演していて、
私の祖父母も通っていたと、聞いたことがあります。

そしてオリオン通りは、中央通りから一つ奥に入ったような裏通り感があって、
デートスポットだったと思うのですね。
私のイメージでは。

そんなことから、やはり「恋」のようなことが、テーマかなと思いました。
なんでこの通りが「オリオン」と命名されたかは不明なのだけど、
あれこれ調べる中で、ギリシャ神話において、オリオン(オリオーン)と恋仲だった月の女神、「アルテミス」の存在が浮上した。

オリオーンは美男子だけど、多少粗野だったのですね。
アルテミスと恋仲になったことで、心配したアルテミスの兄、アポロンが、
アルテミスをだましたのであります。
オリオーンは海の上を歩くことができたのだけど(すごいな)、遠―くの海を歩いているオリオーンに、光を当てて、
そんでアルテミスに、
「おまえは弓の達人というけど、あんなに遠くの光を打てる?無理じゃん?」
と煽って、
光がオリオーンとは知らないアルテミスに、打たせたのです。
そんで命中して、オリオーンは死んでしまったのです。
アルテミスはオリオーンと恋仲だったけど、殺してしまった本人だったりもするのです。
因果な縁ですな。

そんなようなことを、甘苦い思い出の顛末や、映画館が無くなった現在のオリオン通りと重ね合わせたりして、
モチーフはアルテミスにしました。

そしてわしは、「辻辻モンスターズ」の企画のタイトさから、この3体目は過去作品を一部流用してアドバンテージを稼ぐ必要を感じていた。
ここで浮上したのが、保管場所が足りなくてもう破棄してしまった2018年の作品「SUN TOWER2020/MAQETTE」の、顔。
顔だけはね、なんだか可愛くて、破棄せずにとっておいたのですね。
これに出番を与えようと。

この、過去作品パーツを使いまわすことへの考え方については、
以前の日記「バラゴンの定理」を読んでくださいね。

そんなようなことで、サンタワーちゃんの顔を、アルテミス化するに至ったのです。
左半分を、黄色くして、半月になりました。
黄色部分の周囲に付けたのは、「月下美人」という花です。
私の祖父母宅が花農家で、稀にしか咲かない「月下美人」を見せてもらった、小さいころの思い出があったので、月つながりで作りました。

向かって右に飛び出した、カラフルな髪の毛たちは、
昨日ワークショップで、鹿島学園という通信制高校の方々に作っていただきました。
対人でも、文化的なジャンルや芸能等に対してでも、何かに「恋」する力というのは、
やっぱり高校生くらいの年代が全盛期なんじゃないかと思うんですね。
なので、彼らの力を借りようと思いました。
私の話を聞いて、「ギザギザハート」を作ってくれた方もいました。

空中に飾るというのは、久々です。
それなりに大きいのですが、位置が高いので小さく見えます。
でも、とっても良い場所だと思います。
オリオン通り南側入り口ゲートの、造形的な魅力も、再確認できました。

ちなみに写真のような光が当たるのは、午前11時前後で、
これを過ぎると基本的に日陰になります。

月の女神がモチーフですが、太陽感もあるし、メデューサ感もありますね。
良い作品になったと思います。

# by syun__kan | 2023-12-10 21:57 | 作品写真 | Comments(0)
「きょうりゅうじてんしゃ辻モン」について
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11月26日に、前橋中央通りに設置した「きょうりゅうじてんしゃ辻モン」について、
遅ればせながら説明を加えようと思います。

アーツ前橋10周年記念展「ニューホライズン 歴史から未来へ」および「辻辻モンスターズ」の企画については、
前にもう説明したんじゃなかったかなと思います。
そいでこの、「きょうりゅうじてんしゃ辻モン」は、4体中の2体目となります。

「辻辻モンスターズ」のリーフレットに載せたテキストは、下記の通りになります。

『子どものころ、おもちゃ屋さんが大好きでした。怪獣や恐竜の人形を、何時間も眺めていられましたし、「おもちゃのクロダ」でゴジラを買ったことも、はっきり覚えています。高校生の時には、雨の日はこのアーケードを自転車で通り抜けて登校したのですが、雨の日は地面がよく滑るのですね。ステーン!と転んだ痛さも、よく覚えています。ちなみに現在は、滑りにくいタイルに変わったとのことです。』
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というようなことで、
これは高校時代、この前橋中央通りを登校のために自転車で疾走する、
関口自身の残像です。
そこに、中央通りの名店「おもちゃのクロダ」(正式にはクロダ人形店?)様から連想する、
関口の好きだった恐竜たち、怪獣たちの残像がからみついて、こんな形になっています。

関口が一人で造形したのはベージュの通常色のガムテープ部分で、
カラーの尻尾部分は、11月25日のワークショップの参加者様たちに作っていただきました。
関口が元から作っていた尻尾が3本(メカゴジラ、レッドキング、骨)で、
参加者様に作っていただいたのが6本。
はからずして九尾の辻モンになりました。

この複数の尻尾は、尻尾であると同時にバイクの排気筒もイメージしています。
自転車であると同時にバイクなんですね。
排気筒から出るのは推進力です。
ベージュ部分は関口の思い出、すなわちモノクロの過去で、参加者様によるカラーの部分は、未来に向かっていくエネルギーなのです。

一番前の怪獣の顔は、「ウルトラセブン」に出て来る「恐竜戦車」という怪獣がモチーフです。
「ウルトラセブン」というテレビ番組のタイトな制作スケジュールが生み出した、ある意味「苦し紛れ」とも言える、
限りなく「戦車に恐竜を乗っけただけ」に近い、伝説の怪獣です。
乗り物と怪獣のキメラつながりということで、こちらをオマージュしました。
タイトルもです。

ちなみに、関口自身の残像なのに、作品はプリーツスカートを履いた女子高生の形になっていますが、
これは、
「恐竜+怪獣+男子高生では、男子すぎる。
『ダンシ・ダンシ・ダンシ』では、ごく控えめに言ってあんまりだ。やれやれだ」
という判断によります。

それに、日本人はとにかく美少女が大好きで、宮﨑さんにしろ、庵野さんにしろ、
美少女にいろんなものを背負わせてきました。
なんでだろう?
おっさんがおっさんの形のままメッセージを発しては、やっぱりダンシ過ぎるというか、
そういうむさくるしいものには、あんまりみんな耳を傾けたくないから、かしら?
だから美少女に発信してもらっているのかな?
とにかく、
ナウシカさんにしろ、綾波さんにしろ、発しているメッセージは「fromオッサン」なのです。

そういった日本の伝統に則って、
わたくしも「きょうりゅうじてんしゃ辻モン」は、この彼女に託すことにしました。
魂込めて、良い顔にしました。
展示が終わる来年2月まで、彼女が中央通りを訪れた人たちに、愛してもらえると良いなと思っています。

作品は、夜間はトヤマかばん店様に、シャッター内に仕舞っていただいています。出し入れのご協力、誠にありがとうございます。

# by syun__kan | 2023-12-06 21:41 | 作品写真 | Comments(0)
出入り
歯を入れた。

今まで虫歯になんてなったことなかったのだが、
エスター」という日記にも書いたように、中央から右5番目の歯に、食べたものがどうしようもなく挟まるようになり、
やがてその歯が痛みだして、
今年わしは、生まれて初めて本格的な虫歯の治療を受けた。

わしは口を開けて、何度も何度も、歯医者さんに身を委ねた。
どうにでもしてくれと。
何しろ初めてであるから、何が起こるか、わしは全く分からなかった。
でも、わしは全てを委ねた。
子どもの頃だったら、緊張したかもしれない。
何が起こるかと、恐怖していたかもしれない。痛くはないかと。
でも今となっては、
40歳となった今では、
痛かろうと何だろうと、

「働いているのは歯医者さんであって、わしはお客さんで、横になって動かなくていい。
わしはサービスを受ける側であり、何もプレッシャーはない」

という安堵感がまさり、
何も考えず身を委ねた。
プレッシャーが無いのは、楽であった。
そしてわしは常に、横になれば眠かった。

5回くらい通っただろうか。
その度に財布は痛んだ。
それだけは痛かった。
歯より財布が痛かった。

その過程で、わしの虫歯は、一度小さな四角柱のような形状にされた。
鏡に映した訳ではないが、舌で触ると四角柱だった。
すごいことだな、と思った。
えらいことしよるな、歯医者さん、と思った。
人の歯を削って四角柱にするなど。
彫刻か?
モノ派か?

ある時は、わしはガムのようなものを噛まされた。
見たわけではない。
わしは治療中、横になってずっと目を閉じていた。
噛んだ感じがガムだった。
「はい、噛んでくださいね~」と言われ、
上の歯と下の歯を嚙合わせると、それはグニャ~となった。
「はい開けて~」と言われ、再び口を開けると、
歯医者さんはそのガムのようなものを持ち去った。
えらいことしよるな、歯医者さん、と思った。
人にガムをかませて持ち去るなど。

わしが、自分の歯に何が起こっているかを、全く把握できていないのは、
歯医者さんから、その日の作業について、全く説明がないためだ。
「〇〇してくださいね~」という指示だけが、わしに与えられる。
わしは口を開けたまま、
「ぁぃ」と小さく答えるだけだ。
歯医者に来るたびに、小さな「未知との遭遇」に驚いた。
舌で触るその歯は、モノリスのように四角い。
わしは電動リクライニングで身を起こし、
傍らの小さな紙コップに自動で注がれる少量の水で言われるがままに口をゆすいだ。
その時だけ目を開けた。

そして最後の日。
四角柱に、歯が嵌められた。
いや、最後の日とも、知らなかった。
終わった後、これで最後だと告げられた。
舌で触ると、ほんとだ、四角柱ではなく、
そこには以前のような歯があった。
嵌められたのである。
嵌められた。
どこからともなくやってきた、新たなパーツが、わしの体に加えられ、
そして料金を払って「痛い」と思ったのち、
わしは歯医者さんのドアの外に放出された。

えらいことしよるな、歯医者さん、と思った。
人に新たなパーツを加えて放出するなど。
大変な事じゃないか。
削って引いて、加えて出したんである。
歯を。
人の体に。
勝手に。
安いやんけ。
と思った。
人体を改変してこのお値段。
四角柱を作ったこともアートなら、どっからともなく表れたこのシン・歯もアート、
出来上がったわしはちょっとした新作やんけ。
リミックス関口やんけ。

その足でわしは床屋に行った。
蓬髪のままでは社会に適さなくなってしまう。
閉店間際の、1300円の床屋に滑り込むと、
店員のお兄さんが、とっても1300円感のあるサービスで、
わしの髪をハイスピードで切ってくれた。
ハサミが頭にコツンコツン当たる。
このお店では1100円から値上げした代わりに、シャンプーが付くようになったのだが、
その洗い方はカレーを作る前に野菜を洗うようにジャバジャバガシガシ。
拭くときはゴールデンレトリバーを拭くかのように、ワシワシワシワシ。
そして乾かすときにはドライヤーがコツンコツン当たるぜ、
でも望むところだ、
早く済んだ方が良い。

夜風に吹かれて自転車で帰るわしは、
歯が加えられ、髪が引かれた状態。
わしは雑居ビルのようなものだな、と思う。
出たり入ったりする、母体だ。

家に帰って、風呂に入ると、
抜け毛が目立つ。
切った以上に、抜けてはいないか。
そんなに出ていかなくてもいいんじゃないか。
抜け毛は増えた。
抜けた分、生えてきているわけではないだろう。
「テナント募集中」の看板が思い浮かぶ。

一つ前に書いた日記は、奥さんから内容の問題点を指摘され、
「確かにその通りだな」と思ったので、削除した。
わしもまだまだ未熟である。
余計なことを書いてしまったりする。
粘土による彫刻は、足したり引いたりしながら出来上がる。
人間は塑像だ。
人生もだ。

# by syun__kan | 2023-11-21 22:34 | 日記 | Comments(0)
「ジャイアント辻モン」および「辻辻モンスターズ」について
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「ジャイアント辻モン」
昨日のワークショップで参加者様たちと胸から上を作り、今朝既存部分と合体。ついに完成!

ここいらでこの「辻辻モンスターズ」についてご説明いたします。

アーツ前橋10周年記念展「ニューホライズン 歴史から未来へ」への出品ご依頼(ただし館内ではなく館外)があったのが8月。
一般の方々とワークショップしながら作品を完成させ、アーツ前橋周辺の商店街に何点か展示してく感じの依頼で、
「例えばこんなものを」として例示されたのが「辻神」、
あるいは秋田県などに見られる「人形道祖神」。

アーツ前橋周辺の、中央通り、弁天通り、オリオン通りといったアーケード街には、わしも子どものころの思い出がいっぱいあるので、
その思い出を「辻神」にして展示していくのが面白いかも、というアイデアはすぐに出たが、
「辻神」というは、調べてみるとかなりの悪霊で、不吉な存在だったので、
そういうのを商店街に飾るのもなんかやだなあ、
どうすべかと苦悩していたら、
わしの傍らでテレビアニメ「ポケットモンスターズ~リコとロイの旅立ち」を見る娘(小4)。
任天堂Switchのゲームでも、コライドンを操り冒険している娘(小4)。
ああ、なんかこの軽さというか少々の乱暴さというか、深刻じゃない感じが良いなと思い、
また、ある範囲のフィールドに異形のキャラクターが点在している点で、
「辻神」と「ポケモン」の共通点を見つけ、

フュージョン!!

「辻辻モンスターズ」という企画名になったのでした。
そして作る作品は「辻神」ではなく「辻モン」になったのでした。

ただ、わしは18で前橋を飛び出した人間。
アートを志すにあたり、ここではないどこかへと旅立った人間。
前橋への想いというのは、単純ではないですよ。
しかしあれから22年。
何だか前橋も少し変わったのかもしれない。
アーツ前橋ができて10年、ということは知っているが、
それが地域にどう作用しているのか。
そういったことは、不在だったためよく分からないので、
自分の前橋の思い出と改めて向き合いつつ、
今の前橋がどうなっているか、体感してみよう、
そんなようなテーマを持ってわしは、この企画に臨んでいるのであった。

折しもわしは、上毛新聞に連載していた「オピニオン21」において、
アートに対する故郷の環境を、思いっきり批判ぶっこいてしまった折でもあったのでござる。
「じゃあ自分でやってみろ!」と、
言われた気分だった。
今回のご依頼は。

この「ジャイアント辻モン」は、ジャイアント馬場さんが元々のモチーフ(巻いてるベルトはインターナショナルヘビー)。
なんで馬場さんかと言うと、
わしは高校3年の時、美術部に途中入部し、等身大より少し大きいジャイアント馬場さんを作って、
前橋南高校美術部展の一作品として、
ここ中央通りに存在していた「ギャラリー千代田」という場所で、展示したのであった。
高校時代。
高校時代笑。
あれは笑、わしの人生の中で一番の暗黒期ではなかったか。
周囲と全く話が合わなくなって(わしが変人であるがゆえだ。決してみんなは悪くない)。
あの頃、いろんなモヨモヨを、高校生だったわしは馬場さんに注ぎ込んだのであるが、
その思いを吸い込んだ馬場さんの残像が、今も中央通りを歩いている気がするのである。
だから、22年後の今年、わしが作った馬場さんの下半身(ベージュの部分)は、
前橋南高校の校舎だったり、「翔べ!夢と理想に向かって」といった、校舎に掲げられていたスローガン的なものが造形されていて、
まあ要するに「過去」なんだな。
残像なんです。
モノクロームなのです。
でも、過去はあくまでも過去で、
そんな個人のモヨモヨなんて、今を、そしてこれからを生きる前橋の人々には関係ないことなので、
胸から上の上半身は、フルカラーで、のびのびと作っていただいたのである。
わしのセンチメンタリズムを否定してもらったのである。
胸から上は、顔もポーズも全然馬場さんではなく、
飛び立とうとしているかのように、
あるいは世界を受け止めようとしているいかのように、
空を仰いで、手を広げているのです。
目・鼻・口は、4歳の参加者様が、ベタッとテープを貼ったそのままなのです。

そういう像です。

こんな調子で、
来年2月の会期終了まで、
計4体の辻モンを展示していくからね。
お楽しみに。

# by syun__kan | 2023-11-12 21:49 | 作品写真 | Comments(0)



現代芸術家、関口光太郎の日記。
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